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スタートアップの可能性をどう伝えるのか。WBSデスク・中村航氏に聞く、未来の共感を育む広報PR

スタートアップの可能性をどう伝えるのか。WBSデスク・中村航氏に聞く、未来の共感を育む広報PR

テレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のデスクとして数多くの企業や社会課題を取材してきた中村さん。今年5月に行われたスタートアップを対象にした企画「Future Pressrelease from IWATE」で審査員を務め、各社が描く10年後の事業のビジョンや現在の取り組みを評価しました。

今回の審査で中村さんが着目したのは、遠い未来を語る言葉の巧みさよりも、その実現に向けてすでに行動を起こしている企業の強さです。

本記事では「小さくても実績があれば、言葉の説得力はまったく変わる」と語る中村さんに、受賞企業に共通していたポイントや、メディアの視点から見た「伝わる広報PR」についてお話を伺いました。

中村 航のプロフィール画像

テレビ東京 報道局「WBS」デスク・選挙特番「選挙サテライト」チーフプロデューサー

中村 航(Nakamura Wataru)

経済担当記者として日銀・東証・財界などを取材したのち、国際報道番組「未来世紀ジパング」ディレクターとしては『香港の民主化運動に身を投じる若者たち 周庭ら』『フィリピン・ミンダナオ島での「イスラム国」系勢力と軍の戦闘』『中国フィリピンが領有権争いをする海で暮らす漁師』『ミャンマーで少数民族武装勢力の村で旧日本兵の遺骨収集をする元僧侶』『軍隊を捨てた国・コスタリカ歴代大統領の独自取材』『アデン湾での海賊と戦う世界の軍』など、日本では光が当たりづらい国際ニュースについてドキュメンタリーなどを制作。テレ東・ロンドン支局時代にはウクライナ侵攻、エリザベス女王崩御、イギリスのEU離脱、新型コロナ禍での欧州ロックダウンなどを取材した。テレビ東京の配信サイト「テレ東BIZ」、YouTube「テレ東BIZダイジェスト」では「中村ワタルの”沸騰”世界情勢」というコーナーで解説動画を不定期配信中。世界のニュースを時にマニアックに伝えている。

まずは一歩を踏み出し小さな実績を積んでいく

──「Future Pressrelease from IWATE」は「10年後の未来を描く」をテーマにした企画でしたが、中村さんは審査員として特にどのような点を重視されたのでしょうか。

私が重視したのは、「10年後の未来」に至るまでの道筋が具体的に示されているかどうかということです。ただ目標や理想を掲げるだけでなく、その実現に向けて「何をしていくのか」までが描かれていることで、プレスリリースはより説得力のあるものになります。

また、「ビジョンと現在の取り組みがうまく結びついているか」という点にも着目していました。今回参加された企業は、各社とも社会課題に対する問題意識や目指す方向性は非常に魅力的です。そこに向かうための現在の取り組みや、自社の強みとのつながりが明確になると、その企業ならではの価値や可能性がさらに伝わり、より魅力的な発信になると思いました。

──ビジョンと現在の取り組みのつながりを重視されたとのことですが、そうした観点から見て、受賞企業に共通していた特徴はありましたか。

今回の受賞企業に共通していたのは、アイデアや構想だけではなく、実際に手を動かして形にしていたという点です。小さくても「最初の一歩」を踏み出していたということではないでしょうか。サービスや製品を実際に社会に出していたり、実証や導入事例があったりと、小さくても具体的な実績を積み上げている企業は、その先の成長や展開もイメージしやすい。現在地が明確だからこそ、語る未来にも説得力が生まれます。

スタートアップは事業の構想を練ることももちろん大切ですが、考えている間にも世の中は動いています。だからこそ、まずは実際にサービスを形にして社会に出してみる。たとえ小さな取り組みであっても、実績や事例があることで「今こういう課題が見えている」「次はこう展開していきたい」と、より具体的に語れるようになります。

わずか1ミリであっても前に進んだ実績があるだけで、言葉の説得力は大きく変わってくるということを、今回の審査を通じてあらためて感じました。

──「最初の一歩」を踏み出しているという点で、特に印象に残った企業はありましたか。

株式会社WAKU

例えば、「イーハトーブ賞」を受賞した株式会社WAKUさんは、非常に具体性がありました。創業メンバーがエネルギー業界で培った知見を活かして事業を進め、大学での研究成果もあり、今後は岩手に工場を展開する計画もある。事業としてはまだ始まったばかりですが、すでに実績を積み上げながら拡大フェーズに入りつつあるという点が大きな説得力につながっていたと思います。

株式会社築

また、「ネクストユニコーン賞」を受賞した株式会社築さんは、3Dプリンティング技術を活用して実際に住宅を建てていて、その技術を今後どのように展開していくのか、そこに至るまでの苦労も含めて伝わってきました。事業の現在地と将来像が結びついていて、話の軸がとても明確でしたね。

■ 背景:「型枠を組む・職人を探す」を、なくす10年
2023年の創業当時、日本の建設現場では鉄筋コンクリート構造物を建てるために、型枠大工が木枠を組み、コンクリートを流し込み、養生後に解体する工程が標準でした。作業の大半は熟練職人の経験と体力に依存しており、担い手の高齢化と人手不足が深刻化していました。一方、3DCPは機械がデータ通りにコンクリートを積層造形するため、型枠も熟練左官工も必要としません。
しかし技術は存在しても、施工できるオペレーターが国内にほぼゼロであり、「機械はあるが、使える人がいない」という構造的な課題が業界全体を覆っていました。
五十嵐代表は、3DCPで家が建てられる映像をはじめて目にした瞬間の衝撃を、築の原点として語ります。「心が震えるほど感動した。でも自分で挑戦してみると、参照できる事例も、教えてくれる人も日本には存在しなかった。だったら、私が経験を積んで次の世代に教える仕組みを作ればいい──それがアカデミーの出発点でした」。

■ 取り組み:施工実績の積み上げと、アカデミーによる技術移転
築は創業直後から自社施工による実績づくりを最優先し、2025年には日本初となる2階建て3DCP住宅を完成・売却。「事例がなければ作る」という姿勢で積み上げた信頼をもとに、フィリピンの建設会社ONOCOMと海外展開契約を締結し、東南アジア市場への橋頭堡を確立しました。
並行して構築した「3DCP Academy」は、フォークリフトの資格のように、性別・年齢・国籍を問わず誰でも体系的に3DCP技術を習得できるプログラムです。2033年現在、卒業生はアジア全域で1,000名を超え、そのうち約4割が女性または海外国籍の受講者です。アカデミー卒業者が現地でオペレーターとして活躍し、さらに次の受講者を育てる──この自己増殖的な人材供給モデルが、10カ国展開を可能にした構造的な強みです。
さらに3DCP Academyは、技術教育にとどまらず、複数の海外3DCPメーカーと総代理店契約を締結し、国内への機械販売と技術サポートを一括して担う機能も持ちます。3DCP機械の製造元の多くは海外企業であり、導入を検討する建設会社が直接メーカーと交渉しようとすると、言語の壁・時差・物理的な距離が障壁となり、トラブル発生時の迅速なサポートを受けることが困難でした。築はアカデミーで培った複数機種の操作・整備ノウハウを活かし、特定メーカー1社に縛られない立場で国内窓口を担います。導入を検討する事業者は、築を通じて複数機種を日本語で比較・検討でき、購入後の技術サポートも即座に受けられます。「教える会社だからこそ、どの機械が現場に合うかを中立に判断できる」──このポジションが、築のアカデミー事業をただの教育機関ではなく、3DCP産業全体のインフラとして機能させ、ユーザーが自由な選択と自立ができるようにする取り組みです。

株式会社東北医工

「ロードマップ賞」を受賞した株式会社東北医工さんも、実際にリハビリ機器を開発し、体験できる状態まで形にしていました。さらに国から販売認可も取得しており、まさに社会実装に向けた取り組みを着実に進めている企業です。加えて、東北医工さんは当日のプレゼンも非常に印象的でした。66歳になる社長が、「10年後のプレスリリースも自分で発表する」という決意を語られていて、その言葉がとても格好よかったんですよね。事業への強い覚悟や熱量が伝わってきて、実現可能性という意味でも大きな期待を感じました。

ロードマップ賞を受賞した株式会社東北医工 代表取締役 大関一陽氏

今回あらためて感じたのは、プレスリリースの内容だけでなく、「どう伝えるか」も重要だということです。文字だけでは伝わらない想いや熱量を、ピッチの場でどう表現するか。実際に、審査員の間でもプレゼンテーションの中身については何度も話題になりました。ピッチイベントなどに積極的に参加して経験を重ねることも、発信力を高めるひとつの方法だと思いました。

大切なのは社会課題に対する自社の姿勢を明確に示すこと

──コンテストに限らず、スタートアップのプレスリリースを見る際に、中村さんはどのような点に着目されていますか。「取材したい」と感じるのはどんな情報発信でしょうか。

まず、スタートアップである以上、「どんな社会課題を解決しようとしているのか」がわかりやすいことだと思います。社会の中にこういう課題があって、それに対して自分たちはこう挑戦しようとしている。その関係性が明確に伝わると興味を持ちやすいですね。

それと関連して意識していただきたいのが、社会や読む側の視点があるかどうかです。「当社として初めてのサービスです」といった表現をよく目にするのですが、「当社として初めて」という表現は、世の中にとってそれほど重要ではありません。社会や利用者にとってどのような意味があるのかを示せると、情報の受け取られ方は大きく変わると思います。

そして、これはテレビならではの視点ですが、私たちは常に「何が撮れるのか」を考えています。私自身もこの仕事に就いて何十年も経ちますが、取材の現場でも「どんな映像になりますか」と繰り返し確認してきました。だからこそ、実際の現場や製品、サービスの様子が伝わる写真や動画がプレスリリースにあると、取材後の展開をイメージでき、動きやすいですね。

──地方のスタートアップが海外展開を視野に入れて情報発信する際、どのような点を意識するとよいでしょうか。例えば東北医工さんやWAKUさんが今後海外展開を進める場合、どのような切り口や発信が有効だと思われますか。

東北医工さんもWAKUさんも、海外展開の可能性は十分にあると思います。というのも、両社が取り組んでいるのは社会課題の解決だからです。WAKUさんは食料安全保障、東北医工さんは高齢化社会というテーマに向き合っていますが、これらは日本だけでなく世界各国が直面する課題でもあります。

日本はよく課題先進国と言われますが、日本で課題解決のモデルをつくることができれば、これから同じ課題に直面する国々に対しても展開しやすくなる。日本でこうした課題を解決してきたという実績と、その経験が世界でも活かせることを伝えられれば、海外での可能性も広がるのではないでしょうか。

また、海外展開を考える際には、展示会への出展だけでなく、小さくてもいいので海外での導入事例をつくることが大切です。例えば、WAKUさんであれば、ヨーロッパの農家でバイオスティミュラントを試験的に使ってもらうといった取り組みなども方法のひとつでしょう。規模は小さくても、「海外で実際に使われている」という事例があると、私たちメディアも興味を持ちますし、「現地ではどのように活用されているのだろう」と取材のきっかけにもなります。ハードルは高く感じるかもしれませんが、小さな実績を一つひとつ積み上げることこそ、海外展開の突破口です。そして、その実績は海外だけでなく、国内での信頼獲得にもつながっていくのではないでしょうか。

スタートアップこそ「取材機会を逃さない」体制づくりを

──話は変わりますが、中村さんは普段どのようにして情報収集をされていますか。スタートアップの情報が届く経路として、プレスリリース以外にも意識されていることがあれば教えてください。

プレスリリースはもちろんチェックしていますが、これまで築いてきたネットワークから情報を得ることも多いですね。例えば海外であれば大使館の方々ですし、ベンチャーキャピタルの方々とも定期的に情報交換をしています。皆さん鮮度の高い情報を持っているので、日頃からコミュニケーションを取るようにしているんです。すぐに企画になるとは限りませんが、一度ストックしておいて、数ヵ月後や半年後に企画として形になることもあります。

テレビでも実は、ネタを探す段階では文字ベースで情報を追うことも多く、専門誌や業界メディアなどで取り上げられている話題によく目を通していますね。

また以前は、クラウドファンディングのサイトからネタを探していた時期もありました。新しい取り組みやアイデアが集まる場所ですからね。身の回りにあるものは何でもネタのきっかけになり得ると思っています。

──スタートアップが情報発信や広報PRに取り組む上で、プレスリリースを出す前後の対応についてはいかがでしょうか。スタートアップが意識しておくべきことがあれば教えてください。

プレスリリースを発信することは大前提として、その上で、自社が何をしているのか、どのような社会課題を解決しようとしているのかを、わかりやすく伝えていくことが大切です。

そして、オウンドメディアに取り組むのも良いと思いますが、それ以上に意識していただきたいのは、メディアから取材依頼があった際の対応です

自社からの売り込みがきっかけで取材につながるケースもありますが、メディア側から取材を依頼する場合は、すでに企画化や放送を前提としていることも少なくありません。もちろん、スタートアップの皆さんは忙しいと思いますが、実は皆さんが忙しいタイミングこそ、私たちが取材したいタイミングだったりもします。

だからこそ、「今は対応できない」ではなく、「どうすれば対応できるか」という発想を持っていただけると嬉しいですね。メディアを積極的に活用するくらいの感覚でいていただいても良いと思います。

また、スタートアップは限られた人数で事業を進めているため、「このテーマに答えられるのは社長だけだけれど、今は忙しくて対応できない」というケースがあるんです。しかし、社内での情報共有や役割分担で防げる部分もあるかと思います。広報担当者が社内の状況や事業内容を十分に把握し、必要な判断や調整がスムーズにできる体制を整えておくことも重要。日頃から社内でコミュニケーションを取り、取材対応を含めた情報発信の体制をつくっておくことで、チャンスを逃さないポイントかと思います。

──最後に、これから情報発信に取り組む企業の皆さまへメッセージをお願いします。

スタートアップの皆さんは、それぞれが社会課題に向き合い、その分野についての深い知見を持っている方々ですので、まずはそのことに自信を持ってほしいですね。発信のテクニックについては広報PRのプロの力を借りて磨きつつ、ぜひ挑戦を続けてほしいと思います。

特に地方のスタートアップには、その地域だからこそ生まれた課題意識や挑戦の背景があるはずです。なぜこの場所で事業をしているのか、なぜこの課題を解決したいと思ったのか。そうしたストーリーは、その企業ならではの強みであり、大きな説得力につながります。あらためて自社の原点を見つめ直しながら発信していただきたいですね。そして、その地域からどのように世の中を変えていこうとしているのかを、多くの人に伝えてほしいと思います。私もそういった企業の挑戦を取材できる日を楽しみにしています。

まとめ:発信を続けることが、次のチャンスを引き寄せる

スタートアップ支援企画「Future Pressrelease from IWATE」の審査として中村さんが重視していたのは、壮大なビジョンそのものではなく、その未来に向けてどのような行動を起こしているかという点でした。

今回のインタビューから見えてきたポイントは、主に次の4つです。

  • 未来だけでなく、そこに至るまでの道筋を示す
  • 小さくても実績や事例をつくり、まず一歩を踏み出す
  • 自社が向き合う社会課題をわかりやすく伝える
  • 取材依頼に即座に対応できる社内体制を整えておく

特に印象的だったのは、「1ミリでも前に進んだ実績」があるだけで言葉の説得力は大きく変わるという考え方です。スタートアップは限られたリソースの中で事業を進めることになりますが、完璧な状態を待つのではなく、まずはサービスを形にして社会に届ける。その積み重ねが、未来を語る力につながっていきます。

また、地方のスタートアップであれば、「なぜこの地域で挑戦しているのか」「どのような課題を解決したいのか」といった背景そのものも大きな強みになるという言葉に力が湧いてくるのではないでしょうか。自社の原点や想いを言語化し、発信し続ける。共感や信頼を生み出す第一歩として、ぜひ情報発信の参考にしてみてください。

同企画で審査員を務めた朝日新聞GLOBE記者・関根さんへの取材もあわせてご覧ください。

参考:共感を生むのは、整った言葉ではなく「事業の原点」。朝日新聞GLOBE記者・関根和弘さんが語る、スタートアップ広報の本質とは

(撮影:砂流恵介) 

「Future Pressrelease from IWATE」とは
岩手県の企業や大学などと連携し、地域の情報発信力向上を目指す「チャグチャグいわてPRプロジェクト2026」の一環として実施されています。
参考:受賞6社を発表。2036年に描く未来を競う「10年後のプレスリリースコンテスト」岩手・盛岡で初開催、累計150名超が来場

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この記事のライター

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『PR TIMES MAGAZINE』は、プレスリリース配信サービス「PR TIMES」等を運営する株式会社 PR TIMESのオウンドメディアです。日々多数のプレスリリースを目にし、広報・PR担当者と密に関わっている編集部メンバーが監修、編集、執筆を担当しています。

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