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共感を生むのは、整った言葉ではなく「事業の原点」。朝日新聞GLOBE記者・関根和弘さんが語る、スタートアップ広報の本質とは

共感を生むのは、整った言葉ではなく「事業の原点」。朝日新聞GLOBE記者・関根和弘さんが語る、スタートアップ広報の本質とは

事業やサービスの魅力を社会に届けるうえで、プレスリリースは重要なコミュニケーション手段のひとつです。一方で、記者や生活者の心を動かすのは、サービスの特徴や実績だけではありません。その背景にある課題意識や挑戦の理由、創業者の言葉が発信に説得力を与えることがあります。

岩手県内外のスタートアップ10社が、10年後の未来を見据えたプレスリリースとピッチを発表した「Future Pressrelease from IWATE」。審査員を務めた朝日新聞GLOBE記者の関根和弘さんが各社の発表を通じて感じたのは、表現の巧みさよりも「何を伝えるのか」という中身の重要性でした。

本記事では、コンテストを振り返りながら、受賞企業に共通していた特徴や、メディアの視点から見た「伝わるプレスリリース」の条件、スタートアップや広報PR担当者が意識したい情報発信のポイントについて関根さんにお話を伺いました。

関根 和弘のプロフィール画像

朝日新聞GLOBE 記者

関根 和弘(Sekine Kazuhiro)

1998年、記者職で朝日新聞社に入社。地方支局や大阪社会部、モスクワ支局、ハフポスト日本版(出向)、GLOBE+編集長などをへて2025年4月より現職。国際ニュースや社会課題をテーマに取材を続ける一方、企業のSX(サステナビリティトランスフォーメーション)や情報発信のあり方についてメディア視点での提言に取り組む。企業広告やPRの変化を追う連載「広告の新潮流~社会課題への挑戦」を執筆。

スタートアップの広報PRで大切なのは「創業者の思い」

──まずはコンテスト全体を振り返って、10社のプレスリリースを審査された率直な感想を教えてください。

そうですね。まず印象的だったのは、書き方や見せ方を皆さんよく学ばれているのか、全体的に完成度が高かったことです。事業フェーズを考えると、よく練り込まれたプレスリリースがそろっていました。

ただ、僕が今回の審査で特に重視したのは、表現の巧みさよりも「何を伝えるのか」という中身です。記事を書くときもそうですが、僕たちはまず「素材」を見ます。伝える内容や社会的な意味があって初めて、レイアウトや写真、動画といった表現の工夫が生きてくるからです。

そういう点でいうと、今回参加された企業はいずれも地方の課題や自身の原体験を出発点に事業を立ち上げていて、「伝えるべき何か」を持っていました。

ピッチの場においては、その思いをうまく伝えきれなかった企業もありましたが、どの企業も根底には伝えるべき思いがありました。表面的な表現ではなく、伝える理由や背景を持っている人の言葉には、たとえ表現方法が洗練されていなくても人の心に刺さる力があると感じましたね。

──審査では「社会インパクト」「実現可能性」「PRの訴求力」の3つを評価軸としていましたが、10社全体を通して感じた傾向はありましたか。

社会性や社会課題については、どの企業もしっかり持っていたと思います。一方で、実現可能性という点では、ややロジックに欠けるというか、事業の見通しをどれだけ数字的な根拠で示せているのかという部分では、少し弱かったかなという印象もありました。

ただ、スタートアップの場合、すべてがロジックで成り立つのであれば、逆にスタートアップである必要はないと思うんですよね。やはりミッションやビジョンがあって、「だからこの事業をやるんだ」という「思い」がないと、スタートアップをやる意味はない。そういう意味では、ロジック以上に、その会社が何を目指しているのか、なぜその事業に挑戦するのかという部分を見ていました

──ピッチやプレスリリースを見るうえで、関根さんが「ここだけは外せない」と感じるのはどういった部分でしょうか。

ピッチは限られた時間で相手にインパクトを与えながら、自分たちが伝えたいことを整理して、わかりやすく届ける場です。これはプレスリリースも同様で、「編集力」が求められると思っています。

ここでいう編集力とは、「聞き手・読み手の立場から情報を組み立てる力」です。自分たちが言いたいことを並べるのではなく、相手が何を知りたいのか、どういう順番で伝えれば理解されるのかを考える視点。今回のピッチでも、情報が整理されていなかったり、最後まで聞いて初めて「さっき言っていたのはそういうことだったのか」と気づくケースがあったりと、まだ課題として残っている企業が多い印象でした。

一方で、僕がもっとも大事だと思っているのは、「代表自身の思い」です。代表自身が社会課題に直面し、それを課題だと感じたからこそ事業として挑戦している。その思いが伝わって初めて、ピッチやプレスリリースにも説得力が生まれるのではないでしょうか。

──ビジョナリー賞を受賞した株式会社プラウズさんは、そういった点を評価されたのでしょうか。どのような点が印象に残りましたか。

代表ご自身の実体験というか、人生そのものが起業の動機になっていて、それがスタートアップとして目指す未来につながっているのが印象的でした。

もともと革製品の関連会社に勤めておられた代表が、実家の農業を継ぐために地元へ戻られた。また、農業を継ぐだけではなく、革製品に携わってきた経験と融合させ、新しい事業を生み出している。その発想がとてもいいなと思ったんです。

地元に戻らなければならない二代目、三代目の方々や、後継者不足に悩む農家はたくさんいると思います。この取り組みは、そうした人たちに希望を与えるだけでなく、新たな挑戦のモデルケースにもなり得ると感じました。可能性が広がるのを期待できましたし、将来性やビジョンを感じましたね。

朝日新聞GLOBE記者・関根和弘さまインタビュー01

AI時代だからこそ「顔が見える言葉」で届ける

──関根さんご自身、スタートアップ企業への出向経験があり、ご自身でプレスリリースを作成されていたとのことですが、代表の思いを伝えるために意識していたことはありますか。

毎回、創業者の手触り感のある言葉を入れるようにしていました。大切なのは、「顔が見えるプレスリリース」であることだと思っています。

また、バランスがすごく重要です。創業者の人柄や思いを伝えたいからといって書き込みすぎると、プレスリリース自体が長くなってしまう。読まれなくならないように、読まれる分量に収めることを意識していました。エッセンスはプレスリリースに載せつつ、詳しい内容はリンク先の記事やページで読んでもらう。そういう形を実践していましたね。

──手触り感のある言葉ですか。

はい。大企業になるほど広報が代わりに書くことも増えますが、できればご本人の人生や実体験に根ざした言葉で書いてもらうことが大切です。例えば、新しいサービスを始めるのであれば、「なぜ必要だと思ったのか」「自分にとってどんな意味があるのか」といったことを、本人の言葉で書いてもらうようにしていました。

──AIの活用によって、一定水準のプレスリリースを作成しやすい時代になりました。一方で、人だからこそ考えるべきことや、工夫すべきことは何だと思われますか。

AIに文章を書いてもらうこと自体は、まったく悪いことではないと思っていますが、そのまま使うとどうしても似たような表現になりやすいですよね。これはAIが登場する前から感じていたことでもあるんです。僕らはさまざまなアワードでプレスリリースを見てきたので、自分の中にある種の「ビッグデータ」が蓄積されている。そうすると、「こういう順番で書くんだな」という型も自然と見えてきます。

もちろん、最初は「型」を身につけることも大切です。僕も新人の新聞記者だった頃は、「◯月◯日◯時ごろ、何処どこで〜〜何々が発生した」という定型的な書き出しで事故や事件の記事を書いていました。でも、初任地の徳島支局時代にデスクから「お前はニュースをちゃんと考えているのか」と、すごく怒られたことがあるんです。徳島は締め切りが早く、その日に起きた事件が翌日の朝刊ではなく、2日後の朝刊に載ることもある。そうすると、読者にとって本当に重要なのは「何日の何時だったか」ではなく、「どこで起きたのか」という情報なんです。

そのときに、「ニュースによって、読者に何を最初に伝えるべきかは違う」ということを学びました。プレスリリースも同じだと思います。型を身につけることは大切ですが、それだけでは十分ではありません。「自分たちは何を一番伝えたいのか」「読み手に何を持ち帰ってほしいのか」を考えることで、伝え方は変わるのではないでしょうか。

──「何を伝えるか」を考えるには、日頃からどのようなことを意識しておくとよいのでしょうか。

プレスリリースを書くって簡単なことではないんですよね。意外と自分たちのことって、自分たちが一番わかっていないこともあります。あらためて「自社のサービスを説明してください」と言われると、案外困ってしまうものです。

だからこそ、商品やサービスに紐づいた代表の思いや、その事業を始めた理由を、社内で共通認識として持っておくことが大切。そのうえで情報を整理して、「どう伝えたら相手にまっすぐ伝わるのか」を考えることだと思います。

信頼性の高い情報がより求められる時代に

──長年取材されてきた立場から、広報PRのあり方はどのように変化してきたと感じますか。特に印象的だった転換点があれば教えてください。

もっとも大きなターニングポイントは、プレスリリースをWebで配信できるようになったことだと思います。デジタルの領域でプレスリリースや広報PRの存在感を高めてきたという意味では、PR TIMESの登場は非常に大きかったんじゃないでしょうか。

技術的な面でいえば、情報発信の中心がインターネットへ移ったことも大きな変化でした。昔はプレスリリースがファクスで送られてきたり、紙の資料が記者クラブに置かれていました。今でもそうした慣習は残ってはいますが、圧倒的にWeb上やメールなどデジタルで届けられるようになりました。

また、情報の届け先が変わったことも大きいですね。企業からの情報は「まずメディアへ届ける」という発想でしたが、今ではプラットフォームを通じて、企業が一般生活者へ直接届けられるようになりました。PR TIMESはひとつの巨大メディアになったと感じています。僕らのようなレガシーメディアからすると、情報を届けるプラットフォームとして歓迎すべき存在である一方、情報を媒介するメディアという意味では、ある種の脅威でもある。報道とプレスリリースでは役割には違いがあって、補い合う関係でもあり、競合する側面もあるのではないかと思っています。

──企業が生活者へ直接情報を届けられるようになったという点では、SNSの存在も大きいと思います。その変化についてはどのように感じていますか。

SNSはポジティブな面だけでなく、ネガティブな面もかなり大きくなってきたと感じています。玉石混交の情報があふれていて、情報の真偽を見極めること自体が難しくなっていますよね。

同じような課題を感じている企業の方も多いのではないでしょうか。だからこそ、僕らのようなレガシーメディアやPR TIMESのようなプラットフォームを通して発信する意義が再認識されていると思います。ある程度の審査や目利きを経た情報が届けられることで、信頼性が担保される。ある程度精査された状態で読者に届くことは、ユーザーや生活者にとっても、一つひとつ情報の真偽を確かめる負担が減るという意味でとても価値があることだと思います。

朝日新聞GLOBE記者・関根和弘さまインタビュー02

記者が取材したいのは情報ではなく「人」

──数多くの情報が集まるなかで、関根さん自身が「これは取材したい」と感じるのは、どのようなときですか。

これを言うと身もふたもないかもしれませんが、僕らが「取材したい」と思うのは単なる情報でなく、結局は人とのつながりなんじゃないかと思います。昔はインターネットも今ほど発達していなかったので、記事のネタは実際に人に会って、雑談する中から生まれることが本当に多かったんです。

情報だけを見たら通り過ぎてしまうような話でも、担当者から「実はこのサービスは、こういう思いから生まれたんです」と背景や人間ドラマを聞くと、まったく見え方が変わることがあります。実際に会って話すと、文字では伝わらない情報量があるということを経験してきています。だから、優秀な広報PR担当者ほど、実際に記者に会うことを大切にしているんだと思います。

人は人に価値を見いだすものですし、人との関係性の中で、その情報の重要性を感じることもあります。小さな企業でも、広報PR担当者でなくても、「この人の話をもっと聞きたい」と思わせるような名物社員がいる会社はあって、実際にこれまでもそういう方に助けてもらったこともたくさんありました。

地方発スタートアップの可能性を広げる「人との出会い」

──人とのつながりが重要とのことですが、スタートアップが実際に取り組むべきアクションには、どのようなものがあると思いますか。

大前提として、情報の届け先はメディアではないと思うんです。メディアの先にいるユーザーや生活者、BtoBであれば企業などが「本当に届けたい相手」ですよね。メディアはあくまでも、その情報を広く届けたり、信頼性を担保したりする役割を担っているに過ぎません。

スタートアップはメディアとつながることを目的にするのではなく、「どうすれば自社をもっと知ってもらえるのか」という視点で行動したほうがいいと思います。人が集まるところにはメディアも集まります。自分から人が集まる場所へ行ったり、人が集まる場をつくったりすれば、自然とメディアとの接点も生まれてくるのではないでしょうか。

もちろん、名刺交換を機械的に繰り返すだけでは続きません。大切なのは、人との出会いそのものを面白がれるかどうかです。出会った人との会話を心から楽しめるようになるには、自分自身も鍛えていかないといけない。事業だけに目を向けるのではなく、知識や教養、興味関心を広げることもそうですし、世の中のできごとに関心を持ち、さまざまな経験を積むことも大切だと思います。

──最後に、地方で挑戦するスタートアップや広報PR担当者へメッセージをお願いします。

僕は、地方は「原石」でニュースの種がたくさんあると思っています。地方だからという理由で気後れするのではなく、「地方にはまだ知られていない価値がある」という意識で発信してほしいですね

今はインターネットもありますし、会おうと思えば誰とでも会える時代です。結局は、行動しようと思うかどうか。東京にはない特徴や魅力を持っているという意味では、地方のほうが優位なんじゃないかとすら僕は思っています。

朝日新聞GLOBE記者・関根和弘さまFuture Pressrelease from IWATEより

まとめ:地方スタートアップが発信すべき、本当の価値とは

関根和弘さんのお話から見えてきたのは、スタートアップ広報において大切なのは、情報を整えて届けることだけではなく、その事業がなぜ生まれ、誰のどんな未来を変えようとしているのかを、自分たちらしい言葉で伝え続けるということでした。

「地方で挑戦するスタートアップには、まだ社会に知られていない価値やニュースの種が数多くある」と語る関根さん。その原石を磨き、届ける力に変えていくためには、創業者の思いや原体験を見つめ直し、聞き手にまっすぐ届く形へと編集していく視点が欠かせません。

AIの活用や情報発信手段の多様化によって、一定水準のプレスリリースは誰でも作成できる時代です。「整った言葉」と「届く言葉」の差はますます広がっていることを再認識するお話でした。だからこそ、これからの広報PRには、事業の原点を言語化し、「何を伝えるべきか」を問い続け、人とのつながりの中で事業の価値を育てていくことが重要です。その積み重ねが、人の心を動かす発信へとつながっていくのではないでしょうか。

(撮影:砂流恵介) 

「Future Pressrelease from IWATE」とは
岩手県の企業や大学などと連携し、地域の情報発信力向上を目指す「チャグチャグいわてPRプロジェクト2026」の一環として実施されています。
参考:受賞6社を発表。2036年に描く未来を競う「10年後のプレスリリースコンテスト」岩手・盛岡で初開催、累計150名超が来場

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この記事のライター

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『PR TIMES MAGAZINE』は、プレスリリース配信サービス「PR TIMES」等を運営する株式会社 PR TIMESのオウンドメディアです。日々多数のプレスリリースを目にし、広報・PR担当者と密に関わっている編集部メンバーが監修、編集、執筆を担当しています。

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