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家電から、米、ロボットまで。生活者の不満や社会課題を解決するビジネスの伝え方|アイリスオーヤマ株式会社

家電から、米、ロボットまで。生活者の不満や社会課題を解決するビジネスの伝え方|アイリスオーヤマ株式会社

家電、寝具、インテリア、園芸用品、ペット用品、そして、米やお茶に至るまで、ありとあらゆる商品を手がけるアイリスオーヤマ。多くの人に知られるが、「何の会社か」と聞かれたら、人によって答えが変わるかもしれない。

始まりは、プラスチック製品の下請け加工をする小さな町工場だった。そこからメーカーとなり、やがて自ら問屋機能を持つ「メーカーベンダー」という新たな業態をつくりあげる。小売店と直接つながることで、コストを削減し、生活者の声を聞きやすい仕組みが生まれた。

時代のニーズを掴みながら、生活者の不満、不便を解決する商品を次々と開発。その数は現在、3万を超える。大量の商品を貫く方針は、「シンプル」「リーズナブル」「グッド」。多岐にわたる事業や商品はどのように生み出され、それをどう伝えているのか。広報室室長の牧野善成さんに聞いた。

アイリスオーヤマ株式会社(宮城県仙台市):最新プレスリリースはこちら

牧野 善成のプロフィール画像

アイリスオーヤマ株式会社 管理本部 広報室 室長

牧野 善成(Makino Yoshinari)

2004年にアイリスオーヤマへ入社。小売店や通販事業者向けの営業を経験した後、家電事業部にて調理家電、冷蔵庫、洗濯機の各事業の責任者を歴任。その後、メーカー事業本部およびアイリスホールディングス経営企画部門を経て、2025年より現職。現在は広報メンバーとともに、広報・PR活動を通じて、企業ブランド価値の向上および事業成長への貢献に取り組んでいる。

町工場からスタートした「ユーザーイン発想」

「商品ジャンルが多岐にわたるので、一見すると、『何者なのか』という印象も持たれるかもしれません。長らくBtoCの商材を中心に取り扱っていますが、『ユーザーイン発想』をキーワードに事業展開してきました。生活者の不満や不便を見つけ、それを解消する商品を生み出すのです。それからもう一つ根幹にあるのは、社会課題の解決。私たちは『ジャパン・ソリューション』と呼んで取り組んでいます

商品開発におけるポリシーは「シンプル」「リーズナブル」「グッド」(SRG)と明確だ。

「基本的な商品設計は、SRGを踏襲することになっています。機能はシンプル、価格はリーズナブル、品質はグッドな商品を提供する。たとえば家電製品であれば、一回も押さないようなボタンがたくさんあるようなものではなく、シンプルで使い勝手のよいものに。高くもなく安すぎもせず、価値に見合ったリーズナブルな価格設定。そして、ベストでなくてもいい、グッドを狙いましょう、という考えです」

こうした方針に行き着いたのはなぜなのか。それを知るために、アイリスオーヤマの歩みをたどっておきたい。

1958年、現会長・大山健太郎さんの父、大山森佑さんが東大阪でプラスチック製品の下請け加工をする町工場「大山ブロー工業所」を創業する。当時は、プラスチック製品が一般家庭に普及し始める頃だった。ところが6年後、森佑さんががんで他界。19歳の健太郎さんが代表に就任した。

1964年頃、19歳で家業を継ぎ、代表に就任した大山健太郎さん
1964年頃、19歳で家業を継ぎ、代表に就任した大山健太郎さん

依頼をこなすなか、「メーカーになり、自社開発した製品を販売したい」と思うようになる。プラスチックでの新製品を考え、最初に作ったのは「養殖用のブイ」。それまでのガラス製とは異なり、軽量で壊れにくく、養殖業界で広がった。それから数年を経て、1970年に「育苗箱」を開発すると、これが大ヒット商品に。1965年頃に田植え機が生まれ、手植えから様式が変化するなかで、稚苗を育てる育苗箱が必要になった。しかし、当初使われていた育苗箱は木製で水気に弱く、耐久性に課題があったのだ。

左:養殖用のブイ、右:育苗箱
左:養殖用のブイ、右:育苗箱

そうして1971年に「大山ブロー工業株式会社」を設立。代表就任当初500万円だった売上は、1億8000万円まで拡大したという。水産業・農業が盛んな東日本からの需要が増加し、仙台工場を建設した。

だが、1973年の第一次石油危機によって、たちまち資産を失う。本社・大阪工場を閉鎖し、社員も解雇。この大きな挫折から、新しい業態へと転換する。事業の4条件として「自社の強みを生かす」「将来性がある」「収益性の高い業態」「産業向けビジネスよりも生活者向けのビジネス」を掲げた。

そんななか、目をつけたのが園芸マーケットだった。育苗箱で培ったノウハウを活かし、プラスチック鉢を開発する。瞬く間にヒット商品となるが、問屋は在庫リスクを恐れ、十分に扱ってもらえなかった。そこで熟慮を重ね、自ら問屋機能を持つ「メーカーベンダー(製造卸)」という新業態をつくりあげる。これにより、小売店との直接取引が可能となった。

1980年代半ば、ホームセンターとの直接取引によって売上を伸ばすが、直面する課題もさまざまあった。商道徳に反するといわれ、問屋にあった在庫を返品されたり、発注が商品1個単位になり、営業や物流に混乱が生じたりもした。だが、石油危機の挫折から、「好不況にかかわらず利益を出す会社」を目指す現会長の思いは揺るぎなく、販路を自社で確保するメーカーベンダーを推進した。障壁をどう乗り越えていったのか、牧野さんに尋ねた。

「メーカーベンダーの実現に向けては、かなり苦労した背景もあると聞いています。一方で、この仕組みがプラスに働く取引先も多いのです。まず、中間流通を省くことでよりリーズナブルな価格設定が可能になります。また、お客様の声を直接聞く体制をとることができるようになりました

流通改革にとどまらず、生活者のニーズを把握しやすい仕組みが構築された。それに伴い、ヒット商品が次々と生まれていく。とりわけ大きな成功となったのが、1989年の「クリア収納ケース」。開発の発端は、現会長の実体験だった。ある日の朝、釣りに行こうとしたものの、セーターが見つからない。家中の引き出しを開け、寝ている妻まで起こすも見つからず、夫婦喧嘩に――。生活の一コマからひらめき、“中身の見える収納”が生まれる。日本中だけでなく、アメリカ、ヨーロッパ、韓国、中国まで広がる定番商品となった。

クリア収納ケース

そのほかにも、ペット用品、事務用品、旅行用品など、分野を拡大していく。1991年には、「アイリスオーヤマ」に社名を変更。より身近に感じてもらえるように、園芸用品のブランド名だった「アイリス」を冠した。「大山ブロー工業所」から「アイリスオーヤマ」に至るまでずっと、生活者の不満、不便を見つけ、アイデアで解決する商品を作り続けてきたのだ。

3.11を機に確立した「ジャパン・ソリューション」

「ユーザーイン発想」と並ぶ柱である「ジャパン・ソリューション」が掲げられたのは、2011年の東日本大震災がきっかけだった。宮城県仙台市に本社を構えるアイリスオーヤマも被災。震災復興にはさまざまな形で取り組んだが、震災で生じた課題に向き合う商品も生み出した。

「原発事故や原発稼働の見直しによって、電力不足の問題が露呈しました。そこで節電のためにLED照明を普及させる必要があると考え、増産に一気に踏み切ったのです。それから、東北の農業再開を応援するため、精米事業やパックごはんの事業にも参入しました」

精米事業を担うアイリスアグリイノベーションの工場
精米事業を担うアイリスアグリイノベーションの工場

生活だけではなく、社会の困りごとを解決するビジネスへ。「社会のピンチをチャンスに変える経営」という方針が確固たるものになっていく。

寄付も行っていましたが、ビジネスにすることで継続して社会課題に向き合っていこうと。東日本大震災を機に『ジャパン・ソリューション』が明確になりました

それに呼応して、広報PRの伝え方も変化した。

商品の魅力だけではなく、その商品の裏側も含めて発信するスタイルに変わっていきました。誰のどんな不満をどう解決したのか、どういう背景で参入したのか、そういったストーリーをきちんと伝える。どの商品においても、『ユーザーイン発想』『ジャパン・ソリューション』に紐づけて発信しています

牧野さんが今、広報PRを通して目指しているのは、企業のブランド価値向上を図ること、経営企画の一翼を担い、事業の成長に貢献することだ。

「情報を収集して分析し、戦略的に発信していく。広報PRの一担当者という目線を超えて、事業を推進する一員という自覚を持って主体的に活動することが大事だと思っています

これだけ多種多様な商品を扱うなかで、各商品の「事業を推進する一員」として発信するのは難しそうだが、それを可能にする仕組みがアイリスオーヤマにはある。週に一度の新商品開発会議だ。

毎週の新商品開発会議で広報PRが担う役割

毎週月曜日、必ず催されるという新商品開発会議。どんな会議なのだろうか。

「経営層全員と、開発部門、製造部門、販売部門などが一同に会し、そこで一気に情報を共有し、意思決定も行います。開発、生産、営業など、各部署がバトンタッチして上につなげていくのではなく、みんなで一斉に走っていく体制です。私たちはこれを『伴走方式』と呼んでいます」

仙台の本社を拠点に、海外も含めた各拠点をオンラインでつなぎ、100人ほどが参加する。回によるが、40件ほどの新商品企画案が出るという。

新商品開発会議の様子
新商品開発会議の様子

「たとえば、家電のなかでも冷蔵庫、洗濯機、調理家電、照明……など、カテゴリーで事業部が分かれています。それぞれの責任者が毎週いろいろな提案をする。既存商品のブラッシュアップを考えることもあれば、今までになかった新商品の場合もあります」

この会議に、広報室から牧野さんも参加している。

参加することで、議論がどのように行われ、どういう判断に至ったのか、その文脈も含めて理解できるのです。広報PRとして、正しい情報を入手することに重きを置いています

すべての商品はこの会議に提案されるため、全商品の起案から知っておくことができる。プレスリリースをはじめ、社外に発信するうえで、開発背景を理解していることがとても役立つという。広報PRの視点から意見を述べることもある。

たとえば『社会との接点』や『ニュース性』の観点から補足を行うことがあります。機能面では優れた商品であっても、そのままではメディアに取り上げられにくいケースがあるためです。『訴求ポイントを社会トレンドとどのように接続できるか』や『発信のタイミング(発売日)が妥当か』といった点について、メディアの視点や情報を踏まえて意見を伝えます。また、会議では、商品に付随する生産設備への投資なども議論されます。これについてもメディアの観点から情報を共有していますね」

広報PRの具体的なプランについて話し合うこともある。

「プレスリリースに限らず、発信全体のプランについて相談したりもします。たとえば、メディア向け説明会や個別取材の設計、販促イベントとの連動施策など。広告やマーケティング部門との連動プランの設計を議論します」

提案される膨大な商品から、注力して伝えるものをどう選ぶのか。

すべての商品を一律に発信するのではなく、『ブランド価値向上』や『重点事業の成長への貢献』を考慮してセレクトします。発信の内容についても、企業としてのストーリーや事業の方向性とどのようにつながるかを重視していますね。社会課題との接続性やメディアの関心トピックとの親和性、新規性・独自性の高さ、さらには事業戦略上の重要度といった点を踏まえて検討する。時流と社流を組み合わせた情報発信を行うことで、短期的なインパクトにとどまらず、長期的なブランド形成に寄与したいと思っています

商品と社会をつなぎ、その文脈を伝えることで、ブランド価値を生み出している。

最速で進行した「コロナ禍のマスク増産」「備蓄米」

新商品開発会議に提案される企画は、各部門ですでに打ち合わせを重ねたものもあれば、世の中の動きを見て、急ぎ持ち込まれるものもある。

「有事の際には、発案からトップの判断まで本当に迅速に進みます。非上場なので、オーナー経営者が素早く判断できるのです」

この仕組みが商品開発のスピードにつながっている。近年、最速で進行し、社会課題の解決に役立ったのが、コロナ禍でのマスク生産だ。

「マスク自体はコロナ以前から作っていました。生産しているのは中国の工場でしたから、コロナに関する情報も早く入り、すぐに増産しようとしました。ところが、中国から日本への輸送が難しくなりそうだった。そこで新商品開発会議の場で経営陣が議論し、国内でマスクを作ろうということになったのです」

国内でマスクを生産
国内でマスクを生産

工場の確保には時間がかかりそうだが、ここにおいても、すぐに対応できる仕組みがある。

経営方針として、常時、工場の3割を空きスペースとして確保しています。緊急時に新しい工場を建てるのではなく、このスペースを利用して生産することで、ビジネスチャンスをつかむ。コロナの際も、この方針のおかげですぐにマスクの国内生産体制を整えることができました」

メーカーベンダーによって、すでに独自の物流体制もある。

「日本中でマスクが入手困難となっている状況においても、迅速な経営判断とこうした仕組みによって市場の需要に応えることができました」

マスクの販売

昨年は備蓄米の供給に素早く対応し、社会課題解決の一助となった。

「お米の供給が減り、価格がどんどん上がるなか、政府が備蓄米を放出しました。その時、アイリスグループのeコマースを展開するアイリスプラザがすぐに手を挙げ、備蓄米を購入。全小売店のなかで一番早く備蓄米を商品化し、生活者の方々へお届けすることができました」

備蓄米の販売

東日本大震災以降、精米事業に取り組み、自社で精米できる環境を整えていたことも功を奏した。

広報PRとしては、ただ『マスクを提供します』『備蓄米を提供します』という情報だけではなく、販売に至るまでのこうした裏側を発信することを大事にしています。それによって『ジャパン・ソリューション』が伝わり、企業ブランドの構築につながればと思うのです

潜在的な不満、不便を見つけ出すには

顕在化していない生活者の不満、不便に気づくには、仕組みだけではなく、社員やスタッフ一人ひとりの感覚が重要だ。

「企画の提案者も生活者ですから、自身も日々、担当するアイテムを使っています。掃除機の企画担当者であれば、5台、10台の掃除機を使い倒す。自社製品も他社製品も含めて、多くの商品を使うなかで、『この持ち手は持ちづらいな』とか『かがんだ時に負荷がかかるな』とか、不満や不便に気づいていくのです」

半世紀にわたり一貫して、潜在的な不満、不便を見つけ出し、アイデアで商品を生んできた。牧野さんは、生活者と商品の関係に変化も感じているという。

「作る側の視点で商品を開発して、『どうぞこれを使ってください』という形から、生活者の方々が選択する形に変化しているように思います。趣味嗜好が多様化するなかで、カラーやデザインの展開も強化してきました。結果的に品揃えが豊富になり、扱っている商品数も3万点まで増えてきたのです」

アイリスオーヤマのショールーム。多種多様な商品が並ぶ
アイリスオーヤマのショールーム。多種多様な商品が並ぶ

現在は、商品のトレンドだけではなく、生活スタイルの変化も捉えようとしている。

「たとえば、今年から家電のサブスク事業を始めました。単身世帯が増加し、物価も上がるなか、初期投資をおさえて家電を揃えたい人も多いでしょう。このように、商品を販売するだけではなく、その後のコミュニケーションも含めて接点を持ち続けられるビジネスを展開しようとしています」

長く関わり続ける仕組みによって、より生活者の気持ちを汲みやすくなり、さらに多くの商品が生まれていくだろう。また、労働力不足を解決するためのロボティクス事業など、BtoB領域でも事業は拡大しつつある。こうして商品や事業が広がっても、根幹は変わらない。困りごとをアイデアで解決すること。牧野さんが担う広報PRの方針にも迷いはない。

『ユーザーイン発想』と『ジャパン・ソリューション』をキーワードに、生活者の方々に親しみを持ってもらえる、より身近な存在でいたい。商品PRにとどまらず、企業価値をきちんと発信して、一過性ではない継続的なコミュニケーションをとっていきたいと思います

暮らしに不満、不便はつきもの。社会にはあらゆる課題が山積している。しかし知らず知らずのうちに適応し、気づかなくなっていることも多い。私たちは今、何に困っているのか。その問いはこの先も、新しいビジネスを生み出し続けるだろう。そして広報PRが、ビジネスと社会を接続していく。

(取材・文/塚原沙耶)

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