記事検索

「買いたくなる社史」はどのように共感を集めたのか。プロジェクトを広げる情報発信|側島製罐株式会社

「買いたくなる社史」はどのように共感を集めたのか。プロジェクトを広げる情報発信|側島製罐株式会社

プレスリリース配信サービス「PR TIMES」を運営する株式会社PR TIMESは、クラウドファンディングを通じて社会課題を発信してきた3つの企業・団体の事例をもとに、プロジェクト設計から情報の伝え方・広げ方を学ぶセミナー「クラウドファンディングから学ぶ、社会課題の伝え方と広げ方」をテックベンチャー総研との共催で実施しました。

本記事では、登壇企業の一社である側島製罐株式会社の事例をご紹介します。

創業120周年を機に「買いたくなる社史」の出版に挑戦し、クラウドファンディングで1,137名・1,030万円もの支援を集めた同社。セミナーでは、広報コンサルタントの袈裟丸さんがモデレーターを務め、「やりたい」をいかに社会へと開いていったのか、代表取締役の石川貴也さんが語る共感と参加を生む情報発信についてまとめています。

側島製罐株式会社(愛知県名古屋市):最新プレスリリースはこちら

登壇者プロフィールはこちら

自社の「やりたい」を、社会に開かれたテーマへ

明治39年の創業以来、愛知県海部郡で缶づくりを続けてきた側島製罐。創業120周年という節目を迎えるにあたり、これまでの歩みを振り返るために取り組んだのが「社史」の制作でした。

しかし、一般的な社史は関係者などに配布されることが多く、社外の人が手に取る機会は限定的です。石川さんは、「せっかくなら会社の記録として残すだけでなく、多くの人が読みたいと思えるものにしたい」と考え、「買いたくなる社史=オープンヒストリー」という新たな形を構想しました。

目指したのは、自社の歴史を入り口に、その背景にある「缶」の文化や価値まで広く伝えること。そのために以下のポイントを意識したといいます。

  • 一企業の歴史にとどめず、中小企業が歩んできた歴史の面白さを伝える
  • 自社の製品だけでなく、その背景にある缶の文化を未来につなぐ
  • 関係者に配る社史ではなく、社外の人も読みたくなる一冊をつくる

自社の周年事業として始まった社史制作から、社会に残したい価値へとテーマを広げていった石川さん。そして、その考え方を多くの人に伝え、ともに広げていくための手段として選んだのがクラウドファンディングでした。

開始後は、自分たちが目指すことや活動の意義をさまざまな形で発信。メディアでの紹介に加え、ブログ記事の公開や社員を中心にした街頭でのチラシ配布など、情報を広げる担い手として多くの人が加わっていったそうです。さらに、最終日にはXとYouTubeで参加型のカウントダウンライブを実施。約4,000名が視聴し、締め切り間際に目標の1,000万円を達成しました。

今回の経験を通じて、石川さんは「社会課題は自分たちから生まれるもの」だと気づいたといいます。日々の企業活動の中にある疑問や「もっとこうしたい」という思いに目を向け、そこにどのような社会との接点があるのかを考える。自社だからこそ気づけるテーマを見つけることが、多くの人の共感や参加を生むきっかけになるのだと語りました。

クラウドファンディング最終日のライブ配信の様子
クラウドファンディング最終日のライブ配信の様子

共感と参加を生む、言葉とプレスリリースの設計

自社の思いを社会に開かれたテーマへと広げ、クラウドファンディングで目標を達成した側島製罐。ここからは、多くの人の共感や参加につなげるために、具体的にどのような情報発信を行ったのかを見ていきます。

大切にしたのは、「分断を生まない」情報発信

クラウドファンディングの開始後、石川さんが取り組んだのがプレスリリースやSNSでの継続的な情報発信です。社史を出版することだけでなく、中小企業の歴史の面白さや、缶の文化を未来に残す意義を伝えていきました。

その際に意識したのは、「分断を生まない言葉」を使うこと。「支援をお願いします」と呼びかけると、「支援する人」と「支援される人」という関係が生まれてしまうと考え、「一緒にこのプロジェクトをやりましょう」というトーンで伝えることを心がけました。こうした発信を続けるうちに、「自分も当事者だ」と捉える人が増え、プロジェクトを自ら広めてくれるようになったといいます。

そして、石川さんがもうひとつ大切にしたのが、「等身大の自分たちを伝える」ことです。支援が思うように伸びないときにも、順調に進んでいるように見せるのではなく、苦戦している状況を正直な言葉で発信する。できていないことも含めて現在地を伝えながら、一緒に取り組んでほしいと呼びかけました。

プロジェクトをよく見せることよりも、自分たちの思いや状況をありのまま伝え、受け手が参加できる余白をつくる。こうした情報発信が、支援する側・される側という関係を超え、ともにプロジェクトを広げる仲間を増やすことにつながっていったそうです。

プロジェクトの変化に合わせ、発信の切り口を変える

クラウドファンディングは、企画を練り、プロジェクトページをつくり、画像や動画などの素材をそろえてスタートすれば、あとは支援を待つものと思われがちです。しかし、石川さんが実際に取り組む中で実感したのは、募集を開始してからも継続的に情報を届けることの重要性でした。

そこで、プロジェクトの節目を新たな発信の機会と捉え、計4回のプレスリリースを配信。その時々の状況に合わせて、伝える内容や切り口を変えていったそうです。

1回目:プロジェクト開始時|自社ではなく、社会との接点を主語にする

創業120周年の記念日である2026年4月21日、クラウドファンディングの開始に合わせて最初のプレスリリースを配信。タイトルは「缶を愛してくれるすべての人に届けたい。創業120年の缶メーカーの出版プロジェクト」。

石川さんが意識したのは、「自社のことを知ってほしい」と自らを主語にして「I」として語るのではなく、缶文化を未来へつなぐ取り組みとして社会との接点を意識した「We」で語ることでした。しかし、「社史を買う」ことになじみのない人も多く、この時点では思うように取材にはつながらなかったといいます。

2回目:最初の目標金額200万円の達成時|伝わりにくい概念を、身近な言葉に置き換える

開始から約2週間後、最初の目標としていた200万円を達成したタイミングで2本目を配信。「内輪の記録から社会の記憶へ。」という言葉を掲げ、次なる目標として1,000人への参加を呼びかけました。

1本目を経て石川さんが感じていたのは、「オープンヒストリー」や「文化」といった言葉だけでは、社史を出版する意義が十分に伝わりにくいということ。そこで、取り組みの意味をよりイメージしやすい「内輪の記録から社会の記憶へ。」という表現に置き換えました。

3回目:プロジェクト終了まで残り9日|途中経過を新たなニュースにする

終了まで残り9日となった時点で、支援額は約550万円、参加者は約700人。最終目標の1,000名・1,000万円にはまだ届いていませんでした。そこで着目したのが、「働いたことがない会社の社史を約700人が買おうとしている」という実績です。

タイトルでもこの事実を前面に出し、プロジェクトの盛り上がりと残り9日で1,000人を目指す意気込みを伝えました。このプレスリリースは、配信した4本の中で最も大きな反響があり、テレビをはじめとするメディアからの取材にもつながったそうです。

4回目:目標達成後|結果とともに、取り組みの意味を残す

最後は、クラウドファンディングの目標達成を報告するプレスリリースです。「中小企業の歴史を販売可能な文化資本へ。」という言葉をタイトルに掲げ、今回の挑戦がどのような意味を持つのかをあらためて伝えました。

この配信から新たな取材が大きく広がったわけではなかったものの、石川さんは、PR TIMES上に一連のプレスリリースを残すことで、後から側島製罐を知った人にもプロジェクトの歩みをたどってもらえるため、配信することに意義があるととらえているそうです。

これら4本のプレスリリース配信を通して石川さんが重視したのは、「タイトル」と「切り口」です。

特に「社史を買う」というなじみのない取り組みをどうすれば理解してもらえるのかを考え、その時々の状況や反応を踏まえて伝え方を変えていきました。最初から同じメッセージを繰り返すのではなく、プロジェクトの進捗や周囲の反応から新たなニュースを見つけ、「今、何を伝えると届くのか」を考える。ひとつの取り組みであっても、進捗や周囲の反応、変化を捉え直すことで発信するニュースになります。プロジェクトの節目ごとに「今、何を伝えると届くのか」を考え、タイトルと切り口を組み替えることで、継続的な情報発信につなげた事例です。

一度の発信で終わらせず、メディアとの接点を積み重ねる

創業から長い歴史を持つ側島製罐ですが、本格的に広報PR活動をスタートしたのは、2020年に石川さんが6代目の代表取締役に就任してからのこと。それまでは、メディアに取り上げられる機会もほとんどなかったといいます。

プレスリリースがどのようなものかもわからない状態からのスタートでした。新商品発売に際して、見よう見まねで商品情報をA4用紙1枚にまとめ、テレビ局や地元の新聞社など約20社へFAXで送付。大手新聞に小さな記事が写真付きで掲載されたことがメディアとの最初の接点となりました。

その後はPR TIMESでのプレスリリース配信も開始。取材をきっかけに出会った記者とも少しずつ関係を構築し、現在では約20名の記者と連絡を取り合うまでになったそうです。

ただし、メディアに掲載されたからといって、必ずしも取材の連鎖が起こるわけではありません。全国放送のテレビ番組で紹介されても、その後特に話題が広がらなかったこともあり、石川さんは「反響はその時々で異なるため、一喜一憂する必要はない」と話します。

一方で、今回のクラウドファンディングでは、これまでとは異なる広がりも見られたそうです。テレビや新聞などのマスメディアに加え、YouTubeやVoicy、ラジオ、ポッドキャストなどさまざまなメディアへと広がりました。日々の積み重ねが、次の発信を呼び、新たな接点を生み出す土台になります。

一度の発信で大きな成果を求めるのではなく、継続的に情報を届け、その過程で生まれたメディアとの接点を大切にする。こうした日々の積み重ねが、情報が広がる可能性を高めていくのではないでしょうか。

まとめ:社会との接点を見つけ、伝わる形に変えていく

創業120周年を機に、「買いたくなる社史=オープンヒストリー」という新たな挑戦に取り組んだ側島製罐。石川さんの講演を通して見えてきたのは、自社の中にある「こうしたい」という思いを起点に社会との接点を見つけ、多くの人が関われるテーマへと広げていく広報PRのあり方でした。

「支援する人」と「支援される人」を分けるのではなく、ともに取り組む仲間を増やす言葉を選び、うまくいっていない状況も含めて等身大の姿を伝える。さらに、プロジェクトの進捗や周囲の反応に目を向け、その時々で切り口を変えながらプレスリリースを重ねていきました。日頃から情報発信を続け、そこで生まれたメディアとの接点を大切にしてきたことも、今回の広がりを支えています。

社会課題は、必ずしも最初から大きなテーマとして存在するとは限りません。企業活動の中にある疑問や「もっとこうしたい」という思いを掘り下げ、社会との接点を見つけながら伝わる言葉にして届けていく。自社ならではの思いを社会に開き、共感する人とともに広げていくことが、広報PRの役割のひとつです。

【同セミナーの関連記事】

「クラウドファンディングから学ぶ、社会課題の伝え方と広げ方」について
社会課題というと、環境問題や地域が抱える課題など、社会全体にかかわるテーマを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、その入り口は必ずしも大きな問題意識である必要はなく、日々の企業活動の中でふと感じた疑問や、「もっとこうなったらいいのに」という身近な気づきから生まれることもあります。そうした小さな気づきを社会に開かれたテーマへと育て、多くの共感や参加を呼び込むには、どのような伝え方が必要なのでしょうか。

社会課題を発信してきた3つの企業・団体のクラウドファンディング事例から、プロジェクト設計や情報発信のポイントを学ぶセミナーとして、株式会社PR TIMESとテックベンチャー総研が共催しました。

登壇者プロフィール

登壇者、モデレーターのプロフィールはこちら

石川 貴也のプロフィール画像

側島製罐株式会社 代表取締役

石川 貴也(Ishikawa Takaya)

1986年名古屋市生まれ。新卒で日本政策金融公庫へ入庫。中小企業支援を約10年経験したのち、自分を育ててくれた家業や缶業界への恩返しをするために2020年に側島製罐へ入社。「宝物を託される人になろう」という新たなビジョンを掲げ、缶の価値の探求を続けている。

【モデレータープロフィール】 

袈裟丸 梨里子のプロフィール画像

テックベンチャー総研 企業広報研究会事務局長/一般社団法人パワーストローク広報顧問/株式会社AJプランニング 代表取締役社長/広報コンサルタント・メディカルプランナー

袈裟丸 梨里子(Kesamaru Ririko)

医療系BtoB企業の広報部立ち上げとマネジメントを経験後、医療ロボットベンチャーからオファーを受け転職するも、コロナ禍の影響から半年で倒産の憂き目にあう。この経験をバネにTech系専門広報として独立し、ピーク時には7社を請け負うまでに成長。そのうちの1社から多数のメディア露出実績を認められ執行役員CMOとして事業成長に貢献。退職後は幅広い経験を生かし、大手企業の広報アドバイザリー業務、講師活動、教育系事業支援などに積極的に取り組んでいます。2024年10月よりPR TIMES公認プレスリリースエバンジェリストとして活動。

PR TIMESのご利用を希望される方は、以下より企業登録申請をお願いいたします。登録申請方法と料金プランをあわせてご確認ください。

PR TIMESの企業登録申請をする

この記事のライター

PR TIMES MAGAZINE執筆担当

PR TIMES MAGAZINE執筆担当

『PR TIMES MAGAZINE』は、プレスリリース配信サービス「PR TIMES」等を運営する株式会社 PR TIMESのオウンドメディアです。日々多数のプレスリリースを目にし、広報・PR担当者と密に関わっている編集部メンバーが監修、編集、執筆を担当しています。

このライターの記事一覧へ