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縮小市場でも成長するブランドは何が違うのか。「赤星」に学ぶ、需要を生み出すブランド戦略|日経MJ×サッポロビール

縮小市場でも成長するブランドは何が違うのか。「赤星」に学ぶ、需要を生み出すブランド戦略|日経MJ×サッポロビール

瓶ビール市場がこの10年間で約半分に縮小する中、売上を約3.5倍に伸ばしているブランドがあります。サッポロビール株式会社が展開する「サッポロラガービール」、通称「赤星」です。大規模なマス広告に頼ることなく、取り扱い店舗数と1店舗あたりの販売数をともに伸ばしてきた同社。逆風ともいえる市場環境で、長く愛され、選ばれ続けるブランドはどのようにつくられてきたのでしょうか。

株式会社PR TIMESは2026年9月2日、北海道事業者に向けて広報PRを学ぶ特別セミナーを開催。サッポロビール株式会社 執行役員 マーケティング本部長の中村洋一さんと日経MJ編集長の永井伸雄さんをゲストに迎え、商品が選ばれる文脈のつくり方や、新しい消費行動を生み出すための考え方、さらにAI時代にあらためて重要性が高まる「価値の言語化」についてお話しいただきました。当日の講演内容をもとにレポートします。

中村 洋一のプロフィール画像

サッポロビール株式会社 執行役員 マーケティング本部長

中村 洋一(Nakamura Youichi)

1993年にミツカンへ入社後、日本コカ・コーラ、日清食品グループなどでマーケティング業務を歴任。明星食品では執行役員 マーケティング本部長を務め、日清食品では「日清のどん兵衛」のブランド統括や「完全メシ」の事業とマーケティングに携わる。2026年7月、サッポロビール 執行役員 マーケティング本部長に就任。

永井 伸雄のプロフィール画像

株式会社日本経済新聞社 日経MJ 編集長

永井 伸雄(Nagai Nobuo)

1993年日本経済新聞社入社、記者として主に消費関連を担当。2013年消費産業部次長兼編集委員、14年大阪経済部次長兼編集委員などを経て、2018年日経MJ副編集長、20年札幌支社編集部長、22年から現職。

縮小する瓶ビール市場で売上約3.5倍。「赤星」が愛され続ける理由とは

現存する日本で最も歴史のあるビールブランドとして根強いファンを持つ「赤星」。主戦場とする瓶ビール市場がこの10年間で約半分に縮小する中、取り扱い店舗数は約2倍、1店舗あたりの販売数は約2.6倍に伸ばしています。

逆境ともいえる市場環境の中で、赤星はどのように生活者との接点をつくり、ブランドの価値を広げてきたのでしょうか。セミナーの第一部では、共感を起点に取り組んできた約10年間のブランドづくりについて、中村さんにお話しいただきました。

サッポロビール株式会社 中村氏

「探す・出会う・体験する」で赤星の世界観を育てた10年間

中村さんが「赤星」のブランドづくりで重視してきたのは、大きな広告投資によって全国へ一斉に広げるのではなく、商品に共感する人や場所とのつながりを大切にすること。赤星を取り扱う飲食店や店主を生活者との重要な接点と捉え、「酒場」を起点に、赤星を「探す・出会う・体験する」機会をつくってきたそうです。

2016年にスタートしたWebコンテンツ「赤星探偵団」もそのひとつ。赤星を飲める名店を団長が訪ね、読者や生活者に近い目線から赤星を紹介する「団長が行く」や酒場ライターによる発信、異なる世代が赤星を囲んで語り合う「ギャルとオヤジと赤星と。」など、3つの企画を軸に酒場や人とのつながりを通して、赤星の魅力を伝えています。

また、Webでの発信だけにとどまらず、ファンや生活者が実際に赤星を置いている店を探したり、その世界観を体験したりできる以下のような企画も行ってきました。

  • 屋形船(2017年):赤星を飲みながら、ゆっくりとした特別な時間を楽しめる機会を提供
  • 赤星巡り(2018年):赤星を取り扱う店舗が少なかったことを逆手に取り、酒場を巡って赤星を探すスタンプラリーを実施
  • 赤星縁日(2020年〜):コロナ禍での飲食店支援を目的に企画。その後も形を変えながら継続し、現在は全国30か所で展開

このような取り組みを重ねると同時に、生活者との接点拡大にも注力している同社。中村さんが「メディアの分散化」と表現するように、酒場や店主に加え、Webコンテンツ「赤星探偵団」やSNS、イベントなど、さまざまな場で赤星に触れる機会を創出してきました。

近年は、その接点を家庭にも拡大。スーパーやコンビニ、ドラッグストアなどで缶バージョンの赤星を限定販売したり、2026年には赤星のオリジナルグラスを制作、オンラインショップ「赤星商店」で販売したりするなど、酒場を起点にしながら生活者が赤星と出会い、楽しめる場を少しずつ広げているそうです。

「配荷型」から「指名型」へ生活者の需要が店舗に届く流れ

多くの競合が存在する市場で、自社ならではのポジションをどう築くのか。生活者に選ばれるブランドを目指す企業が、向き合うことになるテーマのひとつです。

赤星が選んだのは、競合と同じ方法で差別化を図るのではなく、自社の特性を生かして「戦う土俵を変える」という考え方。中村さんいわく、大規模な広告投資とは異なるアプローチで、独自のポジションを築いてきたとのことです。

その違いは、従来型のアプローチとの比較からも見えてきます。

  • 起点:商品(プロダクト)ではなく、酒場(プレイス)
  • 生活者への働きかけ:「買ってください」ではなく、「探しに来てください・体験してください」
  • ブランドの意味:企業側で定義して伝え切るのではなく、生活者自身が意味を見つけられる余白を残す
  • 情報の流れ:企業から生活者への一方向ではなく、「企業→店→生活者→生活者」へと広げる

これらの中で、中村さんが特に重視するのが、生活者同士や店主との会話を通じて赤星の魅力が伝わる流れです。赤星では、飲食店の店主にブランドの世界観や考え方を伝え、共感した店主が常連客にすすめ、その様子を見た別の来店客が興味を持つといった、人を介した赤星との新たな出会いが生まれているといいます。

さらに、その変化は商品の流通にも表れているそうです。飲食店側から「赤星を入れたい」と問い合わせが入るケースも出てきており、中村さんはこの変化を「配荷型」から「指名型」への転換と表現します。

営業担当者が店に商品を提案し、並んだ商品を生活者が選ぶ従来の「Push型」から、生活者の「赤星を飲みたい」という需要を受けて店が仕入れる「Pull型」への流れをつくり出したことで、取り扱い店舗数は約2倍、1店舗あたりの販売数は約2.6倍にまで伸長。中村さんが「需要そのものが最強の営業マン」と表現するように、企業側から売り込むだけではなく、生活者の声を起点にブランドが広がる仕組みが生まれています。

ただし、こうした仕組みを最初から完成形として描いていたわけではありません。縮小する瓶ビール市場の中で、どうすれば赤星を選んでもらえるのか。試行錯誤を重ねた結果として、現在の「指名される」ブランドの形につながったのだそうです。

商品の価値を再定義し、縮小市場でブランド成長へ

瓶ビール市場が約半分に縮小する中、売上を約3.5倍に伸ばした赤星。中村さんは、「市場が縮むこと」と「ブランドが縮むこと」は必ずしも同じではないといいます。市場全体をけん引するマーケットリーダーには市場そのものの課題を解決する役割がある一方、シェアがまだ大きくないブランドには、その特性を生かして成長できる余地があるという考えです。

赤星が取り組んだのは、すでに持っている特徴を別の角度から捉え直し、その価値を再定義することでした。

  • 熱処理:生ビールが主流となる中、熱処理であることを希少性や歴史を感じられる「本物(Authentic)」という価値に転換
  • 瓶ビール:缶やジョッキが主流となる中、互いにビールを注ぎ合うことで生まれるコミュニケーションを、瓶ならではの価値として発信
  • 取り扱い店舗の少なさ:「どこで飲めるのだろう」という状況を弱みとするのではなく、探索欲を刺激する希少性へ

新たな価値を外から付け加えるのではなく、「熱処理」「瓶」「取り扱い店舗の少なさ」といった、もともと持っていた特徴の意味をポジティブに変えたそうです。ただし、取り扱い店舗が増えた現在は、「探す楽しさ」に代わる次の価値を考える段階に来ていると中村さんはいいます。

大切なのは、商品を売り込むことだけではなく、まず「商品が選ばれる文脈をどうつくっていくか」を考えること。中村さんは、市場環境やトレンドに左右される表面的な手法ではなく、自社の商品がすでに持っている特徴を捉え直し、生活者にとっての意味や体験へとつなげていくことが、ブランドを育てるうえで重要だと語りました。

新しい市場を生み出すブランド価値のつくり方と伝え方

第二部では、株式会社日本経済新聞社 日経MJ 編集長の永井伸雄さんと中村さんが対談。赤星をはじめ、さまざまな企業の事例をもとに、市場が成熟・縮小する中で新たな需要をどう生み出すのか、そして商品が選ばれる新しい消費行動をどうつくるのかについて語られました。

株式会社日本経済新聞社 日経MJ 編集長の永井伸雄さんと中村さんの対談

新しい消費行動を生み出して市場を創造する

永井さん(以下、敬称略):第一部のお話では、赤星が酒場を起点にコアなファンをつくり、そこから少しずつブランドを広げてきたことが印象的でした。一方で、今はSNSなどを通じて短期間で大きな話題になることもあります。中村さんは、こうしたSNS上での広がりをどのように捉えていますか。

中村さん(以下、敬称略):これはあくまでも私の感覚ですが、SNSでバズることを目的にすると中身がなくなってしまいがちです。本当に伝えなければいけないことが置き去りになってしまうので、一過性にもなりやすいと感じています。

永井:そうですよね。SNSでは一時的なブームをつくることはできるけれど、赤星がつくっているのは「文化」ともいえそうですね。

先ほど、「商品の価値を再定義する」という話がありましたが、「ゴンチャ(Gong cha)」を日本で運営する株式会社ゴンチャ ジャパンも、同様の取り組みをしている企業のひとつです。一時はタピオカブームで注目されていましたが、現在は「お茶の文化を広める」ことに力を入れています。

例えば、私たちはよく「お茶しない?」といいますが、実際に飲んでいるのはコーヒーというケースが多いですよね。これに対して、ゴンチャ ジャパンは実際に「お茶を飲む」という行動を広げていくことに注力しているそうです。これも「文化をつくる」ということではないでしょうか。

赤星は、「赤星に合う料理はこれ」というように、楽しみ方を定義することはありますか。

中村:私たちのお客さまは多岐にわたるので、「これ」と決めることはしていません。ただ、昔から赤星を扱っていただいているお店には、長い歴史を持つ名店が多いんです。

私の娘も「赤星を置いているお店はおいしい店だ」と言うんですが、若い人たちは「赤星」をお店選びのひとつの目印として捉えているのだと、私自身もあらためて気づかされました。

永井:赤星そのものが、ひとつのアイコンになっているんですね。ラグジュアリーブランドにも通じるところがありますね。「ラグジュアリー」という言葉には、単に「豪華」というだけではなく、本質的な価値の高さを示し、一定以上の品質を担保する意味もあります。

中村さんの話を聞いていると、市場が縮小しているからといって、新たな市場をつくれないわけではないというふうに感じますね。私は、マーケティングとは「マーケットを創造すること」だと考えているのですが、先ほど中村さんが話していた「意味を変える」という考え方も、新しい利用シーンやマーケットをつくることにつながりますね。

中村:そうですね。私はそこをもう少し噛み砕いて、マーケティングとは「新しい利用行動や消費行動をつくること」だと考えています

例えば、私が以前勤めていたミツカンでは、お酢を調味料として使う市場が縮小していく中で、ヘビーユーザーがお酢を飲んでいることに着目しました。「お酢は調味料」という前提にとらわれず、「お酢を飲む」という新しい行動をつくることで、市場を広げていったんです。既存市場の中だけで考えるのではなく、新しい市場をつくっていくこともマーケティングなのだと思います。

永井:新しい「使うシーン」をつくるということですよね。

以前、日経MJで「値上げをしながらシェアを伸ばした食品・日用品」について調べたことがあったのですが、該当する150品目に共通していたのが、新しい利用シーンをつくっていたことでした。

例えば、エバラ食品の「プチッと」シリーズもそのひとつで、「プチッと鍋」から始まり、さまざまな用途へと商品を広げています。新しい使い方やシーンをつくることには、これからもまだまだチャンスがあると思いますね。

商品の本質的な価値を言語化し、社会に伝えていく

永井:既存商品の新しい需要を生み出すには、その価値をどう伝えるかも重要になりますよね。

中村:そうですね。これまでは、新しい商品が出たらまず「知ってもらい、買っていただく」という認知購買モデルが一般的でした。しかし、多くのカテゴリが飽和状態の今は、「何を伝えるのか」がより重要になっていると思います。

永井:PR(パブリックリレーションズ)というのは、ただ情報を発信するのではなく、そこからお互いにコミュニケーションを取っていくことが不可欠です。プレスリリースを出すことが広報PRなのではなく、商品やブランドの価値について、社会とコミュニケーションを重ねていくことが大切なのではないでしょうか。

中村:「伝える」ということ自体も、かなり変化してきていますし、これからも変わっていくと思います。少し前までは「ググる」やSNSでどうリコメンドされるかが重視されてきました。しかし、これからはAIに聞けば情報が出てくることが当たり前になっていくと思います。

そうなると、あらためて「文字で伝える」ことが大切になるのではないでしょうか。赤星の魅力を文字にするとどうなるのか。ブランドの中身をきちんと言語化して伝えていく必要があると考えています。

永井:言語化するには、その商品の価値が何なのかを突き詰める必要がありますよね。雰囲気だけで「なんとなくおいしいでしょう」と伝えるのではなく、本質的な価値を理解し、言葉にしていくことが重要だと思います。

一方で、その言葉のベースになるリアルな体験も、これからさらに求められるのではないでしょうか。赤星を実際に酒場で飲む体験もそのひとつですよね。

中村:そうですね。伝え方には、業界やカテゴリによって向き不向きもあると思います。そうした中で、新しいマーケットを考えるヒントとして私が最近注目しているのが「ラジオ」です。ラジオは「ながら聴き」ができ、五感のうち聴覚だけを使うメディアですよね。それがいいらしいんです。

永井:ラジオ通販は効果が高いともいわれています。視覚情報に頼れないラジオで目に見えない商品をどう売るかというと、商品の価値を言葉で具体的に伝える力が問われる。まさに先ほどの「言語化」が重要になります。

さらに、パーソナリティの信頼性や人間性も含めて商品が伝わっていく。これから商品やブランドの価値を伝えていくうえで、言語化は欠かせないと思います。そのためにはやはり、企業自身が「その商品の本質的な価値は何なのか」を理解しておく必要がありますよね。

中村:そう思います。ただし、これらは即効性のある取り組みではなく、赤星もここまで来るのには時間がかかりました。それでも続けていくだけの「思い」や「本気度」が、送り出す側には必要なのだと思います。

また、今の市場ではマイナーに見えるものも、その意味を反転させることで新たな価値につながる可能性があります。サッポロビールの中にも、まだ十分に価値を伝え切れていない商品がある。私自身、そうしたものを一つひとつ掘り起こし、その本質的な価値を皆さまに届けていきたいと思っています。

永井さんと中村さんの対談

まとめ:すでにある価値を捉え直し、選ばれるブランドへ

ニュース性や新規性が求められる中で、赤星が取り組んできたのは、目新しさを追いかけることではなく、すでにあるものの「意味を変える」「意味をつくる」ことでした。

中村さんのお話や永井さんとの対談を通して見えてきたのは、商品が持つ特徴や価値を捉え直し、生活者に選ばれる文脈をつくりながらブランドを育てていく姿勢でした。

酒場を起点に生活者との接点をつくり、「熱処理」「瓶」「取り扱い店舗の少なさ」といった特徴を新たな価値へと転換。さらに、企業から一方的に価値を伝えるのではなく、店主やファンを介して生活者から生活者へと広がる流れをつくってきました。こうした積み重ねが、「配荷型」から「指名型」への変化につながり、縮小する瓶ビール市場にあってもブランドを成長させる原動力となっています。

市場の成熟や縮小を前にしたとき、新しい商品や話題を生み出すことだけが選択肢ではありません。自社の商品やブランドがすでに持っているものに目を向け、その本質的な価値を言語化し、生活者にとっての新しい意味や消費行動へとつなげていく。赤星の約10年間の取り組みは、生活者との関係を築き、長く選ばれるブランドを目指すBtoC企業の広報PR担当者にとって、ひとつのヒントになるのではないでしょうか。

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この記事のライター

PR TIMES MAGAZINE執筆担当

PR TIMES MAGAZINE執筆担当

『PR TIMES MAGAZINE』は、プレスリリース配信サービス「PR TIMES」等を運営する株式会社 PR TIMESのオウンドメディアです。日々多数のプレスリリースを目にし、広報・PR担当者と密に関わっている編集部メンバーが監修、編集、執筆を担当しています。

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