株式会社PR TIMESとテックベンチャー総研によって共催された「クラウドファンディングから学ぶ、社会課題の伝え方と広げ方」。
側島製罐株式会社の石川貴也さんに続いて登壇したのは、公益財団法人筑波メディカルセンターで広報PRを担う遠藤友宏さん、モデレーターは引き続き広報PR支援を行う袈裟丸さんです。同センターは、地域の中核病院として救急医療やがん医療などを担うほか、アートの視点を取り入れて院内の療養環境を改善する「病院アート活動」にも力を入れています。2021年夏には、その活動の一環として、緩和ケア病棟の家族控室を改修するクラウドファンディングに挑戦。439名から1,300万円を超える支援が集まりました。多くの人から共感を得て、支援の輪を広げるために、遠藤さんはどのようなことに取り組んだのでしょうか。
本記事では、ステークホルダーの巻き込み方やプレスリリースで工夫したポイント、プロジェクト終了後も続ける情報発信について、遠藤さんの講演内容をもとに紹介します。
公益財団法人筑波メディカルセンター(茨城県つくば市):最新プレスリリースはこちら
ステークホルダーを巻き込み、支援の輪を広げる
筑波メディカルセンターがクラウドファンディングに取り組んだ背景には、コロナ禍で生まれたスタッフの「気づき」がありました。
感染拡大によって患者と家族の面会が制限される中、緩和ケア病棟のスタッフは、「患者にとって、家族と直接会い、一緒に過ごす時間がどれほど大切で励みになるか、生きる力につながるのか」をあらためて実感したといいます。
そこで、患者さんとご家族がよりよい時間を過ごせる環境をつくろうと、緩和ケア病棟の家族控室を改修するプロジェクトが始動。筑波メディカルセンターとNPO法人チア・アート、筑波大学の芸術専門学群の学生が協働し、病院アートの力を取り入れた空間づくりの資金を募るため、2021年夏にクラウドファンディングに挑戦します。
その広報PR活動で、遠藤さんが最初に取り組んだのが、「病院を取り巻くステークホルダーの洗い出し」でした。病院との距離が近い人から遠い人まで、どのような人たちがいるのかを細かく整理し、それぞれにどのような手段で情報を届けるのかを検討。期間中は、届ける相手と手段を組み合わせながら、さまざまな施策を実行したそうです。
その中でも、同センターの職員は大切なステークホルダーのひとつでした。しかし、約1,400人の職員すべてが緩和ケアに携わっているわけではなく、当初はプロジェクトを「自分には関係ない」と捉える人もいたといいます。
そこで活用したのが、院内のデジタルサイネージ。クラウドファンディングの支援額を毎日同じ時間帯に更新し、前日からどれだけ増えたのかを見える化しました。すると、直接プロジェクトに関わっていない職員からも「前日から100万円も増えたけど、何があったの」「しばらく金額が変わってないよ、もっと頑張れ!」と声をかけられるようになり、院内でもプロジェクトへの関心が広がっていったそうです。
- 支援を呼びかける前に、どのようなステークホルダーがいるのかを把握する
- ステークホルダーに応じて最適な情報の届け方を考える
- クラウドファンディングの進捗を可視化して共有することで「自分ごと化」につなげる
上記のポイントを意識したことで、結果的に多くの人を巻き込むことができたと、遠藤さんは振り返ります。

社会課題を捉え、伝えるべき情報を見極める
2015年から筑波メディカルセンター病院の広報PRを担う遠藤さん。コロナ禍に同センターで実施した職員を被写体とした写真展「病院のまなざし」は、プレスリリースの可能性を強く実感するきっかけとなったといいます。
当時は、感染拡大による面会制限に加え、医療従事者への偏見や誹謗中傷など、病院を取り巻くさまざまな社会課題が顕在化。院内ではスタッフのモチベーションが低下し、地域と病院との間にも距離が生まれていたといいます。
そこで、同センターとチア・アートは医師や看護師だけでなく、リハビリスタッフや事務職、清掃スタッフなど、病院で働くさまざまな人の姿を撮影し、医療現場を支える人たちの姿を地域へ届けることで、病院で働くスタッフと地域の双方を励ますことを目指しました。その取り組みをプレスリリースで配信したところ、11ものメディアで紹介される結果となったそうです。
そして、今回のクラウドファンディングでも、遠藤さんはプロジェクトの節目に合わせて3本のプレスリリースを配信。それぞれのフェーズで「何を伝えるべきか」を考え、切り口を変えて発信しました。
- クラウドファンディング開始時
病院としてはじめてクラウドファンディングに挑戦することに加え、コロナ禍でスタッフが気づいた「患者さんと家族が直接会う時間の大切さ」や、家族控室を改修する必要性を発信。「#病院にアートを」を共通言語に、学生による改修イメージやスタッフの写真も活用し、プロジェクトの背景や思いを伝えました。
参考:#病院にアートを| 患者さんとご家族が笑顔になれる緩和ケア病棟へ
- 緩和ケア病棟の家族控室完成時
完成の報告だけでなく、支援者への感謝を伝えることを重視。「茨城県産ヒノキ」など地元メディアを意識したキーワードをタイトルに盛り込み、改修前後の様子や完成を喜ぶスタッフの表情を紹介しました。コロナ禍で支援者を招くことができなかったため、動画でも感謝を伝えています。
参考:#病院にアートを|茨城県産ヒノキに囲まれた家族控室が、 緩和ケア病棟内に誕生
- ICU家族控室完成時
クラウドファンディングから約4年後の2025年3月に配信。資金を使った改修がすべて完了した報告や支援者への感謝とともに、「なぜ緩和ケア病棟のために集めた資金をICUの改修に活用したのか」を丁寧に説明しました。救急医療の現場が抱える課題を示し、ICU看護師長やアートコーディネーター、緩和ケア病棟の医師など、関係者のコメントも掲載しています。
参考:病院アートの力で、重症患者の家族が「気持ちを落ち着かせて待機できる空間」を集中治療病棟に整備
クラウドファンディングのプロジェクトページをつくる過程では、「どうすれば共感してもらえるのか」「なぜ支援が必要なのか」といった取り組みの背景や意義を掘り下げました。「そこで整理した情報を資金調達時のプレスリリースにも生かすことで、プロジェクトに込めた思いを損なうことなく、メディアに向けた発信へと展開できた」と遠藤さんは話します。

継続的な情報発信で、支援者や地域との関係を育む
遠藤さんが、今回のクラウドファンディングで大切にしたのは、支援を集めて終わりにせず、その後も情報を届け続けることでした。
緩和ケア病棟の家族控室が完成した後も、1周年から4周年まで節目ごとに情報を発信。その間にも、余剰金を活用したICU家族控室の改修状況や、プロジェクトの受賞、完成後の施設の変化などをさまざまなメディアで伝え、支援者や地域との接点をつくり続けました。
遠藤さんは、クラウドファンディングの「Funding(資金調達)」を「Fanding(ファンづくり)」へつなげることを重視してきました。支援を一度きりの関係で終わらせず、その後も取り組みの進捗や変化を伝え続けることで、支援者や地域との関係を育み、次の活動を応援する人を増やしていくことができます。
また、情報発信の機会はクラウドファンディングの開始時や施設の完成時だけではありません。例えば、今回の取り組みでは、余剰金を活用した新たなプロジェクトの始動時や、プレスリリースアワードの受賞など、ほかにも発信できるタイミングがあったと、遠藤さんは振り返ります。
ひとつのプロジェクトが進む中には、新たなや変化が生まれます。その都度「今、伝えるべきことは何か」を捉え直し、発信の切り口を更新することが、継続的な情報発信につなげるポイントといえるでしょう。
社内外との関係を育て、広報PRの力を高めていく
クラウドファンディングをきっかけに情報発信を重ねてきた遠藤さんですが、メディアとの関係は一朝一夕に築かれたものではありません。日頃から記者からの問い合わせにスピーディーに対応するなど、一つひとつのコミュニケーションを丁寧に積み重ねてきた結果が、今に至るのだといいます。
例えば、記者クラブにプレスリリースを届ける際にも、記者だけでなく受付の方とのコミュニケーションも大切にしてきました。こうした日々の接点を重ね、現在では継続的な関係を築く記者が6〜7人ほどいるといいます。一方、記者には異動もあるため、一度できたつながりをどう継続していくかは課題のひとつです。
また、広報PR活動を続けるうえでは、社内の理解を得ることも欠かせません。特に、病院広報は一般企業とは異なる難しさもあるため、当初は思うようにいかないことも多かったといいます。そうした経験を経て遠藤さんが重視しているのは、広報PRの重要性を経営層へ直接訴えるだけでなく、「まず現場スタッフにその価値を実感してもらう」こと。
現場の取り組みを広報が一緒になって発信し、「広報を巻き込むと、こんないいことがある」と感じてもらう。その声が院内に広がることで、間接的に経営層の理解にもつながっていくのだといいます。
また、取材につながらなかったプレスリリースも、その素材をオウンドメディアやSNS向けにアレンジすれば、現場の活動を伝える新たなコンテンツとして活用できます。実際に、筑波メディカルセンターのオウンドメディアを見たことをきっかけに就職活動で訪れる人もいるなど、「情報発信はさまざまな形で組織に還元されている」と遠藤さん。
メディアや社内の関係者との日々のコミュニケーションを積み重ね、ひとつの情報を複数のチャネルで届けていく。こうした継続的な取り組みが、広報PRの力を組織の中に根づかせていくのです。

まとめ:クラウドファンディングから広がる、広報PRの可能性
病院アート活動の一環として、緩和ケア病棟の家族控室を改修するクラウドファンディングに挑戦した筑波メディカルセンター。遠藤さんの講演を通して見えてきたのは、社会課題や現場の思いを丁寧に言葉にし、院内外のステークホルダーを巻き込みながら、共感の輪を広げていく広報PRの姿でした。
プロジェクトを始める前にはステークホルダーを洗い出し、それぞれに適した方法で情報を届ける。プレスリリースでは、その時々で伝えるべき情報を見極め、プロジェクト終了後も進捗や変化を発信し続ける。こうした一つひとつの取り組みが、院内外の関係者との接点を育て、次の広報PR活動を支える基盤になります。
印象的だったのは、遠藤さんがクラウドファンディングを「広報PRの夏期講習」と表現したこと。限られた期間の中で情報の整理や発信、ステークホルダーの巻き込みなど、さまざまな施策を実践できるクラウドファンディングは、広報PR担当者にとって大きな学びの場となるからです。一方で、夏期講習で学んだだけでは力にならないように、そこで得た経験をその後の広報PR活動に生かしていくことが大切だといいます。
クラウドファンディングを一度きりのプロジェクトで終わらせず、そこで得た学びやつながりを、その後の情報発信へとつなげていく。支援を集める過程で磨いた、課題を言葉にする力、関係者を巻き込む力、進捗を伝える力を日々の広報PRに生かすことが、継続的な関係づくりにつながります。
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「クラウドファンディングから学ぶ、社会課題の伝え方と広げ方」について
社会課題というと、環境問題や地域が抱える課題など、社会全体にかかわるテーマを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、その入り口は必ずしも大きな問題意識である必要はなく、日々の企業活動の中でふと感じた疑問や、「もっとこうなったらいいのに」という身近な気づきから生まれることもあります。そうした小さな気づきを社会に開かれたテーマへと育て、多くの共感や参加を呼び込むには、どのような伝え方が必要なのでしょうか。
社会課題を発信してきた3つの企業・団体のクラウドファンディング事例から、プロジェクト設計や情報発信のポイントを学ぶセミナーとして、株式会社PR TIMESとテックベンチャー総研が共催しました。
登壇者プロフィール
登壇者、モデレーターのプロフィールはこちら

公益財団法人筑波メディカルセンター 広報
遠藤 友宏旅行業界にて教育旅行分野の添乗・営業担当を経て、2012年に公益財団法人筑波メディカルセンターへ入職。2015年6月より総務部 広報課へ。2023年4月から総務部 経営企画課広報係にて、広報誌の企画編集、動画制作、公式SNSの運営、プレスリリースの配信などを担当。同年10月より、株式会社PR TIMES公認「プレスリリースエバンジェリスト」として活動。2021年に実施したクラウドファンディングでは、広報・PR実務を担当。プロダクト完成後に配信したプレスリリースが、プレスリリースアワード2022にて「ヒューマン賞」を受賞。2026年より医療機関のブランディング支援等を行うMediative株式会社にてプレスリリースアドバイザーとして活動。
【モデレータープロフィール】

テックベンチャー総研 企業広報研究会事務局長/一般社団法人パワーストローク広報顧問/株式会社AJプランニング 代表取締役社長/広報コンサルタント・メディカルプランナー
袈裟丸 梨里子医療系BtoB企業の広報部立ち上げとマネジメントを経験後、医療ロボットベンチャーからオファーを受け転職するも、コロナ禍の影響から半年で倒産の憂き目にあう。この経験をバネにTech系専門広報として独立し、ピーク時には7社を請け負うまでに成長。そのうちの1社から多数のメディア露出実績を認められ執行役員CMOとして事業成長に貢献。退職後は幅広い経験を生かし、大手企業の広報アドバイザリー業務、講師活動、教育系事業支援などに積極的に取り組んでいます。2024年10月よりPR TIMES公認プレスリリースエバンジェリストとして活動。
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