株式会社PR TIMESが2026年10月8日、9日の2日にわたって開催した、学びとつながりの広報PR担当者向けコミュニティイベント「PR TIMESカレッジVol.11」。札幌会場では、HBC北海道放送 情報制作部の石田麻子さんがゲストスピーカーとして登壇し「視聴者に届ける・伝える番組の裏側とPRのアプローチ」をテーマにお話しいただきました。
日々、数多くのプレスリリースが届くテレビ局の制作現場。その中から、取材につながるのは、商品の魅力を伝えるだけでなく、その背景にある「物語」を届けられる情報だと石田さんはいいます。
講演では、テレビ局が重視する情報の「物語性」や、取材したくなるプレスリリースの特徴について解説。また、大丸札幌店の広報 中井香住さんを迎え、メディアの関心を引く情報発信の工夫や、日頃からの関係づくりについても具体的な事例を交えながら紹介しました。当日の講演内容をもとにレポートします。
「ドキュメンタリー要素」を重視するHBC北海道放送の番組づくり

HBC北海道放送 情報制作部 部長
石田 麻子大学卒業後、東京の制作会社にて10年間ディレクターとして日本テレビ「真相報道バンキシャ!」「スッキリ」「news zero」などの報道・情報番組を担当。その後、地元の札幌へUターンしHBC(北海道放送)に入社。報道記者やディレクター、デスクとして10年にわたりニュース現場やワイド番組の制作に携わる。2020年より「今日ドキッ!」チーフデスク「サタブラ」プロデューサーなどを経て、2025年7月より現職。
夕方のワイド番組といえば、新店舗紹介やグルメ・天気・流行など、暮らしに役立つ最新情報を幅広く紹介するのが一般的です。しかし、HBC北海道放送が制作する「今日ドキッ!」は、異なる方向性を打ち出しています。
大切にしているのは「ドキュメンタリー要素」。ただ新店舗や話題の店を紹介するのではなく、その裏側にある人々の思いや歴史、感情を伝えることに価値を置いているそうです。
- 買い物客の人生模様に迫る企画:スーパーで買い物をする人に密着し、子育てや家族との関係などを掘り下げる
- 老舗の歴史を伝える企画:50年以上続く店舗を訪ね、メニューの紹介にとどまらず、店や家族が歩んできた歴史を伝える
- 生産者の仕事に密着する企画:アナウンサーが漁師や農家の仕事を体験し、ものづくりにかける情熱を伝える
こうした方針の背景には、生活者がSNSなどで店舗やグルメの情報を手軽に得られるようになったことがあるとのこと。情報量ではデジタルメディアにかなわないものの、映像と取材を通じて、人々の思いや歴史、感情を伝えられるのがテレビの強みだといいます。
「何が新しいか」だけでなく、「その背景にどのような物語があるか」。テレビ局への情報提供を考える広報PR担当者にとっても、押さえておきたい視点です。
惹かれるのは「物語性」あるプレスリリース
企業から配信されるプレスリリースは、テレビの制作現場にとっても大切な情報源のひとつです。しかし、毎日膨大な数のプレスリリースが届くからこそ、取材する内容を選ぶ難しさもあるといいます。
取材したいプレスリリースに共通する「物語性」を見て、「どのようなストーリーで番組が構成できるか」を考えながら読んでいるそうです。
- 語れる主人公:商品開発に情熱を注いだ開発者や、開発に携わった家族など、取材を通じて思いや背景を語れる人物がいること
- 初公開の現場:北海道初上陸や初取材、初公開など、視聴者の「見てみたい」という気持ちを引き出す要素があること
- 社会背景との接続:物価高や大雨、北海道ならではの寒さなど、生活者が関心を寄せる社会情勢や課題と結びついていること
また、HBC北海道放送のディレクターの目に留まりやすいキーワードとして、「北海道初」「道内シェアNo.1」「地産地消」「人手不足」「家計応援」「初公開」なども紹介されました。番組を制作する側にとっても視聴者として気になる要素だといいます。
大切なのは、自社の商品やサービスの魅力を伝えるだけではなく、「メディアと一緒に番組をつくる」という視点を持つこと。どのような人物や現場を取材すれば、その魅力が視聴者に伝わるのか。番組のストーリーまで想像できる情報提供が、取材につながるポイントとなるでしょう。

大丸札幌店の事例に学ぶ、取材が決まる企画の共通点
講演の後半には、大丸札幌店で広報PRを担当する中井香住さんが登壇。石田さんとは2012年から交流があり、長年にわたり取材現場で協力してきた間柄です。大丸札幌店が実際に配信したプレスリリースを取り上げながら、メディアの関心を引く企画づくりの工夫について深掘りします。

株式会社 大丸松坂屋百貨店 大丸札幌店 広報
中井 香住短大卒業後、大丸松坂屋百貨店に入社。大丸京都店の顧客案内係・婦人服売場・大丸心斎橋店の婦人服売場を経て、2003年大丸札幌店オープンと同時に転勤。婦人服・婦人雑貨売場のリーダーを経て、2012年より、各店の売場経験を活かしながら、広報担当。
権利制約ある話題を企画に変えた「フランス的フェア」
石田さん(以下、敬称略):「パリオリンピック2024」が開催された2024年7月に開催した「ほっぺタウンのフランス的フェア」は、どのような発想から生まれた企画だったのですか。
中井さん(以下、敬称略):オリンピックのように権利が関わるものは、企業が自由に扱えるわけではありません。そこで、フランスの名物料理などをヒントに、百貨店にある商品を組み合わせて「フランス的フェア」を企画しました。
合鴨をのせたいなり寿司やモンブランを使った大福、「パリパリ」という音から発想したパイなど、遊び心のある商品をそろえ、北海道のテレビ局に関心を持ってもらうにはどうすればよいかを考えながら、企画をつくりました。
石田:オリンピックに限らず、スポーツの国際大会などはテレビ局も取材に関してさまざまな制約があります。一方で、世の中で注目されている話題については、番組でも何とか取り上げたいと考えています。
例えば、WBCでペッパーミルポーズが話題になった際には、札幌市内でペッパーミルを使う飲食店を探して企画にしたこともありました。大丸札幌店の「フランス的フェア」は、世の中の話題を取り入れたいテレビ局と、商品をPRしたい百貨店の考えが合致した事例だと思います。

参考:フランス人もびっくり!?な、おいしさの祭典が始まります!大丸札幌店で『ほっぺタウンのフランス的フェア』開催!
帰省シーズンの生活者の悩みに応えた「褒められ手土産」
石田:「褒められ手土産〜夏の帰省のおとも編〜」はどのような工夫をされましたか。
中井:私たちは、お盆や年末の帰省シーズンに合わせて、手土産を紹介するプレスリリースを定期的に配信しています。販売個数だけでなく、従業員へのアンケートや口コミをもとに商品を選ぶこともあります。
今回の企画では、あえてランキングの1〜3位を明示していません。メディアの方に関心を持ってもらうための工夫ですが、プレスリリースを読めば、おすすめの商品がある程度わかるようにしています。大切なのは、お客さまが関心を持つ内容になっているかどうか。プレスリリースは常に生活者にとって役立つ情報かを考えています。
石田:大丸札幌店のプレスリリースは、視聴者が知りたい情報に近いと感じます。北海道から帰省する際には、おいしい手土産を期待される一方、何を選ぶか悩む方も少なくありません。この企画は、そうした生活者の悩みと、手土産を選ぶ楽しさをうまく結びつけていたと思います。
メディアに届く企画づくりの合言葉は「広報はAKB」
中井:企業の有益な情報をメディアを通じて広く届けるために、意識しているのが「広報はAKB」という合言葉です。
例えば、少し前に話題になった「ルビーチョコレート」を紹介する場合は、次の3つの要素を考えました。
- A(あっと驚く):カカオからできているのにピンク色という意外性
- K(キーワード):バレンタインは人に贈るだけでなく、自分のために購入するものへと変化していること
- B(ブームになったもの):話題になっているルビーチョコレートそのもの
この3つがそろっているか、そして生活者が本当に求めている情報かどうかを考えることが、メディアに届く企画づくりにつながると思います。
石田:テレビの制作現場でも、同じことを意識しています。若いディレクターには、「自分が視聴者だったら本当に見たいと思うか」「初めて見る人にも伝わるか」を考えるように伝えています。
広報PR担当者は、自社の商品やサービスの魅力をよく知っているからこそ、多くの情報を盛り込みたくなりがちです。しかし、「初めてその情報に触れる人にもわかりやすいか」「番組になったときに自分でも見たいと思えるか」という問いを持つことが、メディアに届く情報発信の出発点になります。

取材なしでも足りる情報提供がメディア連携のカギ
石田:大丸札幌店のプレスリリースは、記者による食レポなど、実際の取材を想定してつくられているものが多い印象ですね。
中井:「フランス的フェア」では、約3分のVTRですべての商品を紹介するのは難しいため、掲載する商品に優先順位をつけていました。プレスリリースでもおすすめ順に商品を並べ、記者の方から「ベスト3を教えてください」と聞かれても、すぐに答えられるようにしているんです。
そうすることで、取材する方が迷わず商品を選べますし、売り場の従業員や作り手にもどの商品を優先して紹介するのかを共有しやすくなります。
石田:もうひとつ参考になるのが、取材スケジュールの細かさです。集合時間やインタビューに対応する方、試食の時間、撮影できる内容まで、プレスリリースに具体的に記載されていますよね。
テレビ局では、限られたカメラの台数や取材時間の中で、複数の取材先を調整しているので、情報が不足していると、一つひとつ電話で確認しなければなりません。あらかじめスケジュールがわかれば、その情報をもとに取材計画を立てられるので、とても助かります。
中井:私自身は、現場に来てくださった取材班の方がスムーズに動けるようにと考えていましたが、取材先を決める段階でも役立っていたのですね。
目指しているのは、取材に来なくても記事を書いたり、VTRを制作したりできるくらい情報が充実したプレスリリースです。メディアの方は忙しいので、必要な情報を先回りして記載することを意識しています。また、記事や番組のテロップに使用されることも考え、氏名や役職などの表記に誤りがないよう気をつけています。
石田:そのほか、中井さんとご一緒した企画で特に印象に残っているのが、2024年3月に大谷翔平選手が結婚を発表した際の企画です。「婚約指輪が月収の3ヵ月分だとしたら、大谷選手の場合はいくらになるのか」という発想から、約24億円の指輪がどのようなものになるかを調べる企画を考えました。
これまでの関係性があったので、おもしろがって協力してもらえるかもしれないと思い、連絡したんです。数時間後には取材が決まり、大丸札幌店の宝飾品売り場の方に協力いただいて、実際に番組として放送できましたね。
企業にとって直接的なメリットが大きいとはいえない企画にも、テレビの遊び心を一緒に楽しみながら協力していただけたことが、とてもありがたかったです。

【質疑応答】参加者からの質問に、石田さんと中井さんが回答
ここからは、参加者から石田さんと中井さんへ寄せられた質問への回答をご紹介します。
──北海道のように広い地域では、遠方での取材を希望する場合、プレスリリースを早めに配信したほうがよいのでしょうか。
石田:内容にもよりますが、必ずしも何週間も前から情報をいただく必要はありません。HBC北海道放送には旭川・函館・北見・釧路にも記者がいるため、急ぎの取材にも対応できます。情報制作部では、企画の準備から放送まで約2週間かかることもありますが、企画が決まれば数日で動き出すことも可能です。
また、プレスリリースを配信してすぐに取材につながらなくても、興味のある情報はストックしています。編集長によっては半年ほど前の情報を覚えていて、後から取材につながるケースもあります。
──番組の視聴者像は、どのように設定しているのでしょうか。
石田:番組によって想定する視聴者は異なります。夕方の「今日ドキッ!」は幅広い世代を対象としていますが、土曜午後の「サタブラ」「グッチーな!」では、20〜40代の女性を中心に想定しています。
さらに、どのような場面で番組を見ているかも具体的に考えます。家族とリビングで見ているのか、学校や仕事から帰宅して見ているのか、スマートフォンで見ているのか。視聴する状況によって、ナレーションのテンポなども変えています。
中井:大丸札幌店でも、主に30〜50代の方を想定しながら、情報を届けたいメディアや番組の放送時間帯を考えてプレスリリースを配信しています。また、PR TIMESの「いま注目のキーワード」や新聞の一面をチェックして、世の中の関心と自分の感覚にずれがないかを確認しています。
石田:大丸札幌店からいただく情報は、社会情勢と結びついているものが多いですね。例えば、商品紹介に加えて物価高などの背景が示されていると、ニュースとして取り上げる理由がより明確になります。
──商品やサービスの種類が限られる企業では、企画づくりに現場の従業員の協力が欠かせません。ほかの業務で忙しい従業員を巻き込むには、どうすればよいでしょうか。
石田:商品やサービスの種類が限られていても、物語性を見つけることはできます。例えば、不動産売買仲介であれば、単にサービスを紹介するのではなく、なぜ家を買い替えようと思ったのか、その背景にどのような家族の変化があったのかを掘り下げる方法があります。
そうした顧客のストーリーを伝えることが、自社のサービスの魅力を届ける切り口にもなります。現場の従業員にも、普段の仕事がどのように情報発信につながるかを共有するとよいでしょう。
私たちにとって番組は、企業にとっての商品やサービスと同じように大切な作品です。多くの人に見てもらい、喜んでもらいたいという思いを共有することが、社内の協力を得るきっかけになるかもしれません。
中井:成功体験を積み重ねることは大切ですが、現場の方と「一緒にやりましょう」「困っていることはありませんか」と声をかけ合う関係性が土台になります。また、プレスリリースを配信した後には、どのような反応があったかを共有し、うまくいかなかった場合も改善を重ね、少しずつ歩み寄ることが大切です。
──SNSなど、誰もが情報を発信できる時代に、テレビ局は今後どのような役割を目指しているのでしょうか。
石田:私自身は、テレビとSNSや動画メディアを対立するものだとは考えていません。情報を届ける手段がテレビなのか、スマートフォンなのかという違いであり、それぞれの強みを生かしていくことが大切だと思います。
実際に、番組ではスイーツやラーメンに詳しいインフルエンサー、YouTuberの方にリポーターとして出演していただくこともあります。専門的な知識を持つ方として、その知見を番組づくりに生かさせていただいています。
また、テレビの制作者がSNSやYouTubeの制作に携わることもあります。お互いの得意分野を生かしながら、よりよいコンテンツを届けていけるように考えていますね。ただし、これは制作部門の立場からの考えです。広告収益などの事業面では競合する部分もあるため、立場によって見方は異なるかもしれません。

まとめ:自社の魅力を取材につなげる4つの実践ポイント
テレビ局が重視する「物語性」から、生活者の関心を捉えた企画づくり、取材しやすい情報の届け方まで、制作現場と広報PR担当者の双方の視点が紹介された本講演。
その中で共通していたのは、自社が伝えたい情報を一方的に発信するのではなく、メディアが取り上げたいこと、その先にいる生活者が知りたいことを考えるという姿勢です。
- 商品やサービスの背景にある物語を掘り下げる:開発者の思いや誕生の経緯、社会背景とのつながりを伝える
- 生活者の関心と世の中の話題を捉える:季節の行事や社会情勢と自社の情報を結びつけ、取材する理由を明確にする
- メディアが取材しやすい情報をそろえる:紹介する商品の優先順位や取材可能な日時、撮影内容などを具体的に記載する
- 日頃からメディアとの信頼関係を築く:取材への協力や情報交換を重ね、一緒に番組をつくる姿勢を大切にする
プレスリリースの配信がすぐに取材につながらなくても、情報が記憶に残り、後日の取材につながることもあります。日々の情報発信を通じて、自社の魅力を伝え続け、メディアとの信頼関係を育てる積み重ねが、取材につながる土台をつくります。
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