本稿は、高橋春香氏による寄稿です。
導入事例のプレスリリースは、導入が決まった時点で一度配信して終わり、というケースが多く見られます。しかし、成果が出たタイミングで情報を掴み、再発信につなげられれば、そこからメディアの取材獲得という次の展開も生まれます。本稿では、成果情報をどう社内で掴むか、取材で何を聞くか、そしてどう発信・メディア提案につなげるかを、実践的な視点で紹介します。

フリーランス広報PR
高橋 春香スタートアップを中心に広報立ち上げを経験し、広報PR歴は通算14年。不動産テック企業では1人目広報として広報機能を立ち上げ、IPOを経験。Web3×エンタメのスタートアップでは社内広報とオンボーディングを推進。それ以前は消費財メーカーで営業・マーケティング・広報に従事。2025年10月に独立し、テック・AIとライフスタイル領域を軸に、広報戦略の立案から実行までを一貫して伴走支援。広報×コミュニティによる事業プロデュースも手がける。
「成果が出たあと」の情報を追えている企業は多くない
導入事例の取材では、導入の経緯や選定理由は聞けていても、成果の部分まで聞けていないケースが目立ちます。フロントで顧客対応をしている担当者(CSやPMなど)と広報PRとの連携不足や、成果を聞くタイミングの見極めができていないことが背景にあるのではないかと考えます。
成果を聞けない理由は「社内連携」の設計不足
成果が出たタイミングを知るには、フロントで顧客対応をしている担当者(CSやPMなど)との連携が欠かせません。SaaS企業では、契約後の顧客対応をこうした担当者が担うことが多いです。成果に関する情報は現場側に集まりやすく、広報PRには共有されないケースがあります。個人的には、広報PR側から能動的に情報を取得しにいくための情報の動線設計(Slackチャネルの設置や、定期的なミーティングでの確認)が重要だと考えています。
具体的には、クライアントのフロントに立つ担当者(CSなど)を通じて、導入後3〜6ヵ月を目安に、どの指標で成果が見えてきそうかをクライアントにヒアリングしてもらっています。
それに加えて、成果が出て事例取材ができそうな企業があれば、定期的に情報を共有してもらう仕組みをあらかじめ作っています。ただし、成果が見えるまでの期間はサービス内容によって異なるため、ここでの目安はあくまで私個人の経験に基づくものです。
経営視点と現場視点、両方を話せる人を選ぶ
導入時の取材では意思決定者が適任ですが、成果を語れるのは現場の担当者であることが多くあります。経営層に近い立場の方が、経営的な視点と現場の実感の両方を話せるのであれば、お一人の取材でも十分です。
そうでない場合は、経営的な観点を持つ方と、現場の実感を持つ方の両方に話を聞くことで、記事に厚みが生まれます。取材対象を一人に絞る前に、経営視点と現場視点のどちらも取れる体制かを確認することが大切です。
ここで選んだ話者は、後日メディアが直接取材を希望した際の対応者にもなり得ます。誰が話すかは、記事の質だけでなく、その後の取材対応にも影響する選定です。
成果が出たあとの事例取材で聞くべき3つの質問
成果を聞き出すには、導入前・導入後・その変化という3点を分けて聞くことが有効です。何を聞くかを決めておくだけで、取材の精度が上がります。
1.導入前の状態を数字で確認する
導入前にどんな課題があったかを確認します。このとき、できる限り数字で表現してもらいます。「時間がかかっていた」ではなく「1件あたり何時間かかっていたか」まで聞くことで、後の変化が伝わりやすくなります。
2.導入後の変化を定量と定性の両方で聞く
導入後の変化は、数字(削減時間、コスト、件数など)と、現場の声(意思決定への影響、業務への実感)の両方を聞きます。数字だけでは伝わらない実感を、担当者自身の言葉で語ってもらうことがポイントです。
3.変化の大きさを本人の言葉で語ってもらう
導入前と導入後の差分を、取材対象者自身がどう捉えているかを聞きます。第三者が数字から推測するのではなく、本人の実感として語ってもらうことで、記事の説得力が変わります。
SaaS企業の場合、定量・定性ともに成果が似た内容になりがちです。取材時には、想定していなかった副次的な効果もあわせて聞きます。取材先企業の独自性が見つかり、記事の差別化につながります。
導入事例を「もう一度」発信する2つの手段
成果を聞き出せたとして、次に考えるのは発信方法です。成果を数字で伝えるか、背景やプロセスとして伝えるかで、選べる手段が変わります。
1.配信基準を満たす場合は導入成果を伝えるプレスリリース
導入前後の変化を数字で示せて、社会的な注目度も見込める事例であれば、成果そのものをニュースとして配信する成果型プレスリリースが有効です。導入時とは別のタイミングで、同じ事例から二度目の配信機会を作れます。
実務では、まず自社オウンドメディアで成果型の事例記事を作成し、その内容をプレスリリースの書き方に合わせて抜粋・再構成する方法も効果的です。
2.開発秘話や想いを伝えられるPR TIMES STORY
「PR TIMES STORY」は、プロジェクトの裏側や開発秘話、創業者やメンバーの想いを、当事者の言葉で発信できる広報・PRサービスです。ニュース性を必須としないため、成果に至るまでの背景やプロセスを、物語として発信できます。企業の規模を問わず、取材で引き出した成果を独自のストーリーとして発信につなげる手段として機能します。
配信内容を個別のメディアアプローチにもつなげる
成果型プレスリリースやPR TIMES STORYで発信した情報は、そのまま個別のメディアアプローチにも活用できます。配信した内容を、関心を持ちそうな記者やメディアへ直接持ち込むことで、配信だけでは届かなかった専門メディアへの掲載機会を広げられます。配信して終わりにせず、同じ成果の情報を複数の手段で使い切ることが、取材獲得につながる近道です。
実際の例を紹介します。バ・アンド・コーは、配信そのものが記者の目に留まり掲載につながった例です。VideoTouchとカミナシは、配信後に個別のメディアアプローチを行ったことで掲載につながった例です。
VideoTouch株式会社(プレスリリース+個別メディアアプローチ)
AI教育プラットフォームSaaSを提供するVideoTouch株式会社は、みずほ証券のコンタクトセンター研修DXについて、成果型プレスリリースを配信しました。この配信をもとに個別のメディアアプローチを行い、金融総合専門紙「ニッキン」の電子版「ニッキンONLINE」の取材につながりました。
プレスリリース: みずほ証券、VideoTouch提供の「VideoTouch」と「AIロープレ」同時導入により、トレーナー座学5時間50分をオンデマンドへ転換、4拠点400名のコンタクトセンター研修DXを実現
株式会社カミナシ(プレスリリース+個別メディアアプローチ)
金属加工業の小林製作所への『カミナシ 従業員』導入について、外国人従業員との意思疎通改善という成果を含めたプレスリリースを配信しました。この配信をもとに個別のメディアアプローチを行い、日経電子版や朝日新聞、テレビの情報番組といった大手メディアの取材につながりました。
プレスリリース:金属加工の小林製作所、『カミナシ 従業員』導入で外国人従業員60名とのコミュニケーション基盤を構築
バ・アンド・コー株式会社(プレスリリース、PR TIMES STORY)
ここまでSaaS企業の例を紹介しましたが、この考え方はSaaSに限りません。参考として、BtoB/BtoCの事例も紹介します。
コワーキング&シェアオフィス「co-ba」の企画・運営を手がけるバ・アンド・コー株式会社は、co-ba横浜関内について、プレスリリースおよびPR TIMES STORYを配信しました。この発信が、ラジオ番組「金沢シーサイドFM」への出演につながりました。
プレスリリース:co-ba 横浜関内、ヨガ×アップサイクル×クリエイティブを軸に活動する「SATANAMA Lab」とコラボし、ポップアップヨガスタジオを始動
PR TIMES STORY:挑戦する人が、走り続けるための「集中と余白の循環」 〜 “ WORK OUT PARK!” co-ba 横浜関内 誕生の舞台裏
まとめ:もう一度発信する視点が、次の取材機会を生む
導入事例の価値を決めるのは、プレスリリースになるかどうかではありません。
成果情報を社内で掴み、取材で数字と言葉として引き出せているかどうかが、その後を左右します。
- 成果情報は、導入企業の窓口(CS、PMなど)との定期的な連携によって社内から集める
- 取材対象は、経営視点と現場視点の両方を引き出せるかで選ぶ
- 成果型プレスリリースの基準を満たさなくても、PR TIMES STORYという選択肢がある
- 配信した内容は個別のメディア提案にもつなげることで、取材獲得の可能性が広がる
導入事例を「もう一度」発信する視点を持つことは、企業規模や配信基準を問わず、広報・マーケティング担当者に共通して役立つスキルです。
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