自社の認知拡大やファンづくりに欠かせない広報PR活動。広報PR担当者が少人数、あるいは兼務体制でも、成果を出している企業があります。
プレスリリース配信サービス「PR TIMES」を運営する株式会社PR TIMESは、2026年4月21日にWeWork JR仙台イーストゲートビルと共催で広報PRセミナーを開催。株式会社Gakkenで年間800本以上のプレスリリース配信に携わる戸口木綿子さんにご登壇いただき、現場の情報をいかに広報PRへつなげるか、その考え方と実践について伺いました。
忙しい中でも成果を出す広報業務の進め方をはじめ、自社の強みを再発見する考え方や情報発信を続けるコツなど、当日の内容をもとにレポートします。

株式会社Gakken ブランドプロモーション課 広報
戸口 木綿子宮城県出身。地元の音楽大学を卒業後、オペラ歌手として研鑽を積みながら数社で事務などを経験し、2013年に株式会社リブランに入社。音楽家向けの賃貸マンション営業を担当後、Webやイベントを活用してのブランディングに尽力すべく宣伝部へ異動。2020年広報を立ち上げ、宣伝と兼務。コーポレート広報、メディアリレーションズに注力し、行列のできるマンションとして注目を集めた。2025年4月より株式会社Gakkenに入社。出版PRとコーポレート広報を担当。PRSJ認定PRプランナー。2024年10月より、株式会社PR TIMES公認「プレスリリースエバンジェリスト」としても活動。
現場の一次情報を価値に変える「広報PR視点」
広報PRの専任がいないことは、一見するとネガティブにとらえられがちですが、戸口さんは「広報は専門部署だけの仕事ではない」と語ります。
日々の業務の中で顧客の声や現場で起きている課題、商品・サービスが生まれた背景、失敗から立て直したエピソード、その際の苦労など、広報PRの素材となる多くの一次情報に触れています。その情報をただの「業務上のできごと」として終わらせるのではなく、「誰に届けると価値になるのか」「どのように伝えれば自社を知ってもらえるのか」という「広報PR視点」でとらえ直すことが、現場発の広報PRを実践するうえで重要なポイントです。
そして、それらの情報を自社SNSやオウンドメディアなどで発信することで、多額の広告予算をかけずとも認知拡大や信頼構築につなげることも。特に生成AIの活用が広がる現代では、成功談よりも失敗談や苦労した経験など、人にしか語ることができないストーリーが、読み手やメディアの共感を生むきっかけにつながります。
広報PR視点を掛け合わせて広がる事業成長の可能性
広報PR活動は、営業や採用・商品企画・イベント運営など、さまざまな業務と掛け合わせることで事業成長につながる可能性があります。各業務に広報PR視点を取り入れることでどのような成果につながるのか、4つの事例をもとに解説していただきました。
事例発信が信頼獲得につながる「営業活動×広報」
営業活動では、商品やサービスを一方的に提案するだけではなく、導入事例や顧客ストーリーを発信することで、問い合わせや信頼獲得につなげることができます。
特に、生活者に向けた情報発信が難しいBtoBでは、「どのような成果が出たのか」「どのくらい効率化できたのか」「業界内でどのような立ち位置にあるのか」といった、具体的な数字や比較を交えながら発信することがポイントです。
こうした事例発信がメディアの取材につながることで、自社だけではなく、事例に登場した顧客である企業にとってもメリットが生まれ、相互の信頼構築にもつながっていきます。
価値観への共感がミスマッチを減らす「採用活動×広報」
採用活動においては、スキル要件や条件だけを伝えると、入社後のミスマッチや早期離職につながるケースも少なくありません。そこで重要になるのが、現場社員の声や日常の様子など、「等身大の情報」を発信することです。
社員の1日の流れや現場での失敗談、社内の雰囲気、働く人の価値観などを写真や動画を交えながら発信することで、応募者は入社後のイメージを持ちやすくなるでしょう。少ない情報だけで会社を選ぶことが難しいからこそ、企業文化や価値観を伝えることが共感を生み、自社に合う人材からの応募増加や、入社後の定着率向上にもつながります。
ストーリーが共感を育む「商品企画・プロモーション×広報」
商品企画やプロモーションでは、機能面やスペックの訴求に終始してしまいがちです。しかし、それでは競合との差別化が難しくなってしまうと戸口さんはいいます。
大切なのは、「なぜその商品をつくったのか」という背景を伝えること。開発に至った背景や作り手の思い、利用者の声、課題をどのように解決したのかといったストーリーを発信することで、商品への共感が育まれ、口コミも生まれやすくなります。
また、「13,000人待ち」「4,000冊即完」など、具体的な数字を交えて伝えることも、説得力や話題性を高めるためのポイントです。
開催前後の発信が価値を広げる「イベント企画×広報」
イベント企画では、あらかじめ対象者や伝えたい内容を整理し、「どのような切り口なら興味を持ってもらえるか」を設計することはもちろん、業界紙や地域メディア、SNSなどの媒体リストを準備しておくことで、開催時の発信や取材依頼にもつなげやすくなります。
開催中は、取材導線の整備やSNSでの発信も丁寧に行い、開催後にはイベントレポートの公開や参加者へのフォローも実施しましょう。また、「開催して終わり」ではなく、事後レポートとして記事化し、自社メディアで発信しておくことで、次回イベントへの誘導にもつながります。特に、協賛企業を集めるイベントでは、次回以降の協賛依頼に役立つこともあるため、事後レポートの配信がおすすめです。

忙しくても続けられる広報PR実践のポイント
広報PR活動を継続しようと思うものの、「忙しくて広報PRまで手が回らない」という課題を抱えているケースも多いのではないでしょうか。大切なのは「仕組み化」と「効率化」。限られたリソースの中で広報PR活動を実践するための4つのポイントをまとめています。
生成AIを活用し、広報業務を効率化する
「ChatGPT」「Gemini」「Claude」などの生成AIを活用することで、広報PR活動を効率よく進めることができます。プレスリリース作成では、下書き生成やタイトル案の作成、情報整理などをAIでサポートすることで、作成時間を大幅に短縮可能です。
例えば戸口さんは、プレスリリースを作成する際、「取り上げられたいテレビ番組の報道コーナーのキャッチにそのまま使えるよう、〇文字以内で△△というキーワードは必ずいれたタイトル案を20個出してほしい」などとタイトルの案出しに活用。そのほかにも、プレスリリース本文の校正、最適な言い回しを思い付かないときの代案出し、比較する他社事例の洗い出しにも活用しているといいます。
また、生成AIは業界トレンドの分析や競合調査、メディア動向の把握といった情報収集のほか、取材前の想定Q&A作成やコメント案の整理など、メディア対応の準備にも活用することができます。
ただし、生成AIを活用する際には、ファクトチェックや独自性の追加など、必ず人による最終確認が必要です。
社内情報を集める「仕組み」をつくる
広報PR活動では、「発信する情報が集まらない」という課題に直面することも少なくありません。そこで戸口さんは、広報PR担当者が個別に情報を探し回るのではなく、社内から自然と情報が集まる仕組みづくりに着手したそうです。
例えば、各部署に広報協力者をひとり設置し、週次や隔週で15分程度のミーティングを実施。現場の情報を継続的に収集できるようにしたといいます。ほかにも、Googleフォームなどで情報共有窓口を設けたり、Slackの日常会話から情報を拾ったりすることで、広報PRネタを集めやすくなるでしょう。
さらに、記事化された内容やメディア掲載後の反響を社内へ共有することも大切なポイントです。協力してくれた従業員へ感謝を伝えることで、継続的な情報共有につなげていくことができます。
「売り込まなくても取材される」情報設計
メディア対応では、「広告っぽく見せない」工夫も重要だと戸口さんはいいます。
例えば、タイトルでは、固有名詞を並べるよりも、「誰にどんなメリットがあるのか」「なぜ話題なのか」を2〜3秒で理解できる形にすることがポイントとのこと。また、記者が記事化したくなる要素として、新規性や時流性、意外性、社会性、共感性、地域性など、「9つのメディアフック」を意識しましょう。
メディアフックの詳しい説明は、こちらをご覧ください。

またメディアが記事化しやすいように、横長の高画質画像を複数用意しておくこと(※)や、電話番号・メールアドレスなど、すぐに連絡が取れる問い合わせ先を明記しておくことも重要です。
文字の入った素材は記事に使用できないケースも多いため、PR TIMESではプレスリリースに掲載する画像とは別に、メディア用のダウンロード素材の準備を推奨しています。一部のメディアでは、背景のない透過画像は使用できないこともありますので、背景有無によって複数パターン用意すると親切です。
※参考:【PR TIMESノウハウ】PR TIMESの画像アップロード方法は?プレスリリースに適した画像サイズ・解像度も解説
社内ニュースを世の中に届く切り口へ変換する
「世の中にとっては興味がないかもしれない」と思われる社内ニュースでも、切り口次第で価値ある情報に変えることは可能です。例えば、戸口さんが前職で経験した社長交代のニュースもそのひとつです。
「創業55周年という節目での社長交代」は会社にとって大きなできごとである一方で、「世の中には関係ないニュース」と思われがちです。しかし、戸口さんは後任社長が「出戻り社員(アルムナイ採用)」であったことに着目。当時、「出戻り社員」がトレンドになり始めていたことから、「出戻り社員が社長に就任」という切り口でプレスリリースを配信しました。さらに、それまで世襲だった社長就任が、50代の先代から、40代の社員への事業承継という点も、「早期事業承継」という社会性のあるテーマとして発信。その結果、不動産業界紙を中心に多数のメディア掲載につながったといいます。

もちろん、いきなりテレビや大手メディアへの露出を目指すのではなく、まずは業界紙との関係構築を積み重ねていくことも重要なポイント。継続的な信頼関係が、その後の取材や問い合わせにつながるケースもあるのだそうです。
課題を起点にニュースをつくる3つのステップ
セミナーの後半では、日々の業務の中にある情報を「発信ネタ」として言語化する方法についてのワークショップが行われました。
「特別なニュースがなくても、現場で抱えている課題や日常業務の中には、広報PRにつながるヒントが数多く存在している」と戸口さん。「困りごと」を整理し、広報PR視点で捉え直しながら、実際の発信内容へ落とし込むまでの3ステップを教えていただきました。
1.「困りごと」を整理し、自社の課題を言語化する
まず、営業や採用、商品企画など、それぞれの業務で抱えている課題を洗い出し、「今、業務で一番困っていること」を整理します。「いつから困っているのか」「どのような影響が出ているのか」などを、できるだけ数字を用いて言語化することが大切です。こうした日々の困りごとこそ、広報PR視点では発信の入り口になります。
2.課題を「発信のチャンス」へ変換する
次に、整理した課題を「PR視点」で捉え直していきます。ここで重要になるのが、「誰が喜ぶのか」「どのような価値があるのか」「どう伝えると響くのか」という3つの視点です。
例えば、「営業の成約率が低い」という課題も、「営業効率化ノウハウ」として発信することで、同じ悩みを持つ人に価値ある情報として届けることができます。また、「採用のミスマッチが多い」という課題も、社員のリアルな声や働く様子を発信することで、価値観への共感を生みやすくなるでしょう。「困りごと」を単なる課題で終わらせるのではなく、発信価値へ転換することが大切です。
3.5W1Hで「明日から実践できる発信」に落とし込む
最後は、実際の発信内容を以下の5W1Hで整理し、明日から実践できるレベルまで具体化します。
- What:何を発信するか
- Who:誰に届けるか
- Where:どこで発信するか
- When:いつ発信するか
- Why:なぜ発信するのか
- How:どのように伝えるか
その際、「営業向け成功事例を自社オウンドメディアで月1回発信する」「採用向けインタビューをSNSで週1回投稿する」など、掲載先や頻度まで落とし込んで設計することがポイントです。

まとめ:広報PRの視点で情報資産を生み、事業成長へ
今回のセミナーでは、本業と広報PRを兼務する中でも成果につなげるための考え方や、日々の業務にある情報を発信価値へと変換する方法が共有されました。
現場で得られる一次情報を「誰に届けると価値になるのか」という視点で捉え直すこと、営業や採用、商品企画、イベント運営などの業務に広報PR視点を取り入れることによって、ニュースとしての価値が生まれてきます。また、生成AIの活用や社内連携の仕組みをつくっていくことで継続的な発信や広報PR活動を実現できるのです。
こうした一つひとつの実践が、認知拡大や信頼構築、そして事業成長につながっていくと戸口さんは語ります。特別なニュースがないように感じる日常業務の中にも、顧客の声や現場の課題、商品・サービスが生まれた背景、失敗から得た学びなど、広報PRのきっかけとなる情報は数多く存在しています。自社らしい切り口を見つけ、現場からの情報発信を積み重ねることが、事業の成長にもつながる広報PRの第一歩になるのではないでしょうか。
まずは自分の業務で「今、一番困っていること」をひとつ書き出すことから始めてみましょう。
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