本稿は、塚原沙耶氏による連載企画です。
大分県は国東半島、瀬戸内海を望む緩やかな丘陵地に、日本最大級といわれる38ヘクタールのオリーブ園が広がる。「国東クリーブガーデン」だ。この地で生まれた高品質のオリーブオイルは数々の賞を受賞している。
この農園を運営するのは、西日本各地で上下水道の維持管理を担うキュウセツAQUA株式会社。創業から60年以上、浄水場や下水処理場などの公共インフラを支えてきた。今なぜオリーブ栽培を手がけているのだろうか。背景には、農業で地域を元気にしたいという思いがある。就農人口の減少や現場の高齢化により、耕作放棄地は増加。市の高齢化率は全国平均を大きく上回り、人口減少が進んでいる。
そんななか、国東クリーブガーデンは名産品を生み出すだけでなく、観光農園化を目指す。広報PRを担うオリーブ事業部の佐々木貴宏さんは、「国東のオリーブ」に可能性を感じて移住してきたという。名産品を作り、観光地を育て、雇用を生み、地域を盛り上げる。先の長い取り組みを、広報PRとしてどう耕していくのだろうか。
キュウセツAQUA株式会社(福岡県):最新のプレスリリースはこちら

キュウセツAQUA株式会社 オリーブ事業部 国東クリーブガーデン
佐々木 貴宏横浜市生まれ。大手電機メーカー、外資系ブランドコンサルティング会社でのコピーライターを経て、2012年に香川県・豊島へ移住。美術館運営や棚田プロジェクトに携わったのち、小豆島の老舗オリーブ会社へ。農園での栽培業務を経て、広報部門の立ち上げ、企業リブランディング、情報発信、農園・工場見学などオリーブ事業全般に携わる。2023年より現職。2028年開園予定の観光農園に向けた広報PR、ツアー・視察対応、地域連携、イベント企画、SNS運用、写真・動画・ドローン撮影などを手がけるほか、国東市におけるオリーブの認知拡大や地域振興にも取り組んでいる。
水道会社がオリーブ農園に取り組む理由は

オリーブといえば、地中海。温暖で日照量が多く、降水量が少ないところが栽培に向いているとされる。日本では小豆島がオリーブ栽培発祥の地としてよく知られ、生産量も日本一だ。小豆島以外でも岡山県や静岡県、九州地方など、各地で栽培が広がっている。
福岡県福岡市に本社を構えるキュウセツAQUAが、オリーブ事業をスタートしたのは2016年のこと。それ以前から農業には着手していたという。佐々木さんはこう説明する。
「2012年に佐賀県鳥栖市でミニトマトの栽培を開始しました。農業に取り組む理由は、新たな事業を育てること、そして地域貢献です。就農人口は減り、現場は高齢化して耕作放棄地は増えています。雇用を生む必要もある。そういった諸問題を解決するために、農業に参入しています」

オリーブ栽培の気候条件を満たす大分県国東市。九州ではもっとも雨の少ないほうで、海からの風が吹き抜けることも果樹栽培に適しているという。現在オリーブ園が広がる地域は、かつてみかん畑だったそうだ。
「国の常緑果樹研究所があり、昭和41年から39年間にわたり、主にみかんを作っていたそうです。その栽培が終わり、10年くらい耕作放棄地になっていました。研究所の跡地をキュウセツAQUAが借り受け、国や県、市の補助金も活用しながら運営しています」
こうして耕作放棄地が、現在のオリーブ農園へ。オリーブの木を根付かせることは土地の保全にもつながると佐々木さんは指摘する。
「果樹にはそれぞれ寿命がありますが、オリーブはなかでも長生きする木で、地中海のほうに行けば、樹齢数百年、数千年の木がある。その分、地面に強く根を張ります。一大産地スペインのオリーブ畑が広がる地域は、地盤がすごく硬かったりする。すると地崩れなども起きにくくなるのです。オリーブ畑を維持していくことは、土地を生かし続けることだと思います」

多くの地方都市が人口減少や高齢化に直面している。ここ国東市でも大きな課題だ。市の人口は現在2万4000人ほどで、この10年で5000人以上減った。国東市の65歳以上人口は2020年時点で43%を超え、全国平均を大きく上回る。
「地域からは観光農園として人を呼ぶことを期待されています。また今後、雇用を生むことも重要です。今はまだ人数が多いとは言えませんが、農園の正社員4人、アルバイト4人の8人を基本に、収穫時期の2ヵ月は多い時で20人ほど、地元の方々にアルバイトとして加わっていただいています」
収穫量の増加や観光農園化による雇用の創出は、やがて地域の未来に影響していくだろう。

「広報PRが必要では?」と提案して入社
佐々木さん自身が、オリーブ事業に携わるためにやってきた移住者だ。もとは香川県小豆島にあるオリーブの会社で10年ほど広報PRを担当し、2023年にキュウセツAQUAに入社。佐々木さんがこの地を選んだのは、広報PRによって「国東のオリーブ」を盛り上げていけると思ったからだった。
「小豆島での仕事には大きなやりがいがありましたが、これから伸びる生産地にも行ってみたいと思うようになりました。広報PRの職種で募集はなく、『国東のこれからに、自分の経験が活きるのではないか』と提案して採用になりました。とはいえ、私の名刺に『広報』とは入っていません。広報PR専任というわけではなく、そこに括れないような仕事も広く担当しています」
佐々木さんが来るまで、国東クリーブガーデンに広報PR担当はいなかった。農園も製品もあったが、魅力をどう届けていくかは模索しているところだった。佐々木さんはどのように仕事を開拓していったのか。
「私が来たのが9月で、ちょうどオリーブの収穫が始まるところだったんです。すでにあったInstagramを活用したり、Xのアカウントを作ったりして、まずは収穫の様子を発信していきました。それから地元の小学生向けに収穫体験を行い、メディアに情報を伝えて取材に来ていただいたり。そういう基本的なところから進めていきました」

小豆島で培ってきた広報PRを展開していったものの、すぐに地域差を実感したという。
「『静岡のお茶』『青森のりんご』のように、『小豆島のオリーブ』はブランド化しています。一方、国東のオリーブは、まだ地元の人にも知られていません。『あそこで何か作っていると思ったら、オリーブだったんだ』という感じなんです。一大産地でないとはこういうことなんだな、と痛感しましたね」
まだまだこれからであることは、むしろ国東にやってきた理由でもある。佐々木さんがとくに惹かれたのは、観光農園化を目指している点だった。
「小豆島はもともと観光で成り立っている面があって、『道の駅 小豆島オリーブ公園』が受け皿になっていますから、各農園でそんなに観光客を受け入れているわけではありません。そのなかで私自身は、農園や工場見学など、お客様を迎える仕事に注力していました。国東では、農園自体を観光の目的地として育てていくという動きがあり、そこに興味を持ったんです」
国東は、何か目的がないと訪れる機会が少ない場所だという。大分県に来る観光客のほとんどが、大分空港から別府や湯布院など南へ向かい、空港より北にある国東にはなかなか足を運ばないのだ。
そこで、佐々木さんが目をつけたのはバスツアーだ。
「国東半島を巡るバスツアーが博多から多く出ているので、可能性があるなと。小豆島にいた時には考えなかった選択肢でした。バスツアーであれば、交通の便が悪くても一度にたくさんの方に来てもらえますし、敷地は広大ですからバスの受け入れもしやすいのです」
初年度からどんどんバスツアーを受け入れ、のべ2000人以上が訪れたという。ツアー客の案内は佐々木さんが行っている。
「だいたい1時間くらい滞在されるので、その間に農園を散策して、オリーブオイルのテイスティングをしたり試食をしたり。オリーブオイルをふだん使っていても、オリーブ農園に来たことがある方はあまりいません。畑を歩き、そこに身を置くことの気持ちよさをまずは味わってもらいたいと思っています」

バス会社や旅行会社などが組むバスツアーで案内するほか、直接問い合わせを受けた個人客も受け入れている。取材の日も、横浜から訪れた個人客を農園にお連れした後だった。
「商品を売ることも大事ですが、今はまず、国東のオリーブを知っていただくこと。なかなかハードルは高いと思いますが、来てもらうことに一番重きを置いています。オリーブの産地として盛り上げていきたいですね」
広報PR活動の中で手応えを感じるのは、個人客をオリーブ園へ案内する時だと佐々木さんは語る。
「やはり写真ではわからない魅力があります。開放的な環境で時間をかけて、国東でオリーブに取り組む理由や私自身のバックグラウンドなどもお話しすると、理解を深めていただいた実感がありますね」
長年の経験から得た知識、ここに魅力を感じて移住してきたこと、そして何より「国東のオリーブ」にかける情熱が心を掴むのだろう。この土地に流れる時間を感じ、オリーブと地域の未来を思う。そういう人が一人また一人と増えていくことに意味があるのだ。
オリーブオイルのレシピを自ら考案して紹介
「クリーブ」の「Q」は、九州国東の「Q」、クオリティの「Q」だ。国際的なオリーブオイルコンテストでも多数受賞し、品質や味はお墨付き。佐々木さんはどのようにおいしさを伝えているのだろうか。
まず、国東のオリーブオイルの特徴について尋ねると、こう解説してくれた。
「イタリアやスペインのオリーブオイルは、雨が少なく晴れの日が多い気候風土が影響して、ピリッとした辛さがあるんです。同じ品種を日本で栽培してもそうはならない。雨の比較的多い日本では、全体的にまろやかでフルーティーな味わいになります。日本国内のオリーブオイルの違いに関しては、食べ方や使い方による部分が大きいですね。国東は海と山が近い土地なので、海に近ければ海産物、山側なら椎茸などの食文化があります。名産のタコや太刀魚にかけたりすると、国東でしか出せない味になる。大分のかぼすと一緒に練り込んで搾油したオリーブオイルは、国東ならではです」

ベーシックなエキストラバージンオリーブオイルに加えて、大分のかぼすや宮崎ひゅうがなつ、福岡タロッコオレンジなどを使用した「九州フレーバー」も商品展開している。
「かぼすのオリーブオイルは白身魚と合います。しらす丼など、丼ものにかけるのもすごくおいしいですよ。基本的にオリーブオイルは醤油と相性がいい。イタリアンのイメージがあるかもしれませんが、柚子胡椒などにも合うので和食にぜひ使ってほしいですね」
食べ方、使い方を伝えることは、地域の魅力を伝えることにもつながる。Instagramではオリーブオイルを使ったレシピを紹介しているが、実はこのレシピはすべて佐々木さん自身で考案し、写真も撮影しているという。
「料理が好きで、オリーブオイルをどうやっておいしく食べるか、日夜考えています。毎週末、土曜か日曜のどちらかの午前中、3つ作ってみるんです。本当は週に3つ更新したいのですが、料理にはうまくいかないこともあるので、平均すると週に1つくらいでしょうか」

佐々木さんがとくに好きな食べ方は、旬の果物と合わせること。
「『オリーブオイルってどうやって食べたらおいしいですか?』とよく聞かれます。パスタやピザなどいろいろありますが、おすすめしたいのはやっぱり旬の野菜や果物。旬のものはそれだけでも十分おいしいけれど、ますますおいしくしてくれるのがオリーブオイルなんです。旨みや甘みを増してくれるのが、オリーブオイルのいいところ。スープでも肉料理でも和食でも、なんでもおいしくなりますよ」
ツアーの試食では、バニラアイスクリームにかけて提供することが多いという。なぜ、オリーブオイルをかけるとおいしくなるのだろう。
「オリーブオイル特有のよさは、香りです。品種や産地、実の熟れ具合やブレンドによって、さまざまな香りが生まれます。芝刈りした直後の草のような青々した香り、バナナや桃のようなフルーティーな香り、甘いシナモンの香り……。かけた瞬間に香りを楽しめます。これをもっと伝えていきたいですし、香りの違いを楽しめるオイルを作っていかなければならないと思いますね」

香りの違いはどのように生まれるのだろうか。
「一番大きいのは、オリーブの品種。国東クリーブガーデンでは、気候風土の似たイタリア・トスカーナの品種にこだわっています。ただ、一度にたくさんの品種を試せるかといえば、そう簡単ではありません。木を植えて収穫できるのは数年後ですから。品種の違いの次に香りに影響するのは、栽培の管理です。たとえば、どれくらい水をあげるのか。もちろん降水量や台風などの天候も関係します。品種と栽培方法、天候の掛け合わせで味や香りは変わりますね」
佐々木さんは農園でぜひ搾りたてのオリーブオイルを味わってほしいと語る。
「早朝から収穫が始まり、昼前後から搾り始め、終わるのが夕方くらいになるので、その時間には搾りたてを味わっていただくことができます。また、10月中旬は“新油”が出回る時期。午前中にオリーブの収穫を体験して、夕方に搾りたてほやほやを持ち帰っていただくツアーも少しずつ増やしています」

何年もかけて地道に可能性を広げていく
こうして日々いろいろな活動に取り組む佐々木さんだが、栽培も観光農園化も一朝一夕に進むものではない。広報PRとして歯がゆさを感じることもある。
「畑の規模にまだ収穫量が伴っていません。広報PRとして悩ましいのは、『日本最大級の農園』とお伝えするものの、収穫量が目標に届いていないことです。木の成長に栄養が使われていて、実をならすほうに回っていないというのが一つの見立てではあるんですが。剪定や水やりの方法なのか、肥料の問題なのか、国内外の情報を集めて農園に展開したりしながら、試行錯誤しています」
天候にも左右され、想定通りとはいかないのが農業の難しさ。それと連動して、観光農園化も時間を要する。目下、地域や行政とも連携しながら準備している最中だ。
「今お客さんを案内している工場は仮設なんです。製造の全工程を見ていただける工場を作り、カフェやレストラン、ショップも新設して、2028年のオープンを目指しています。現在は市の農業を担当する部署とのやりとりが多いのですが、収穫量が安定して来客が増えてくれば、観光関係の部署との取り組みが本格化するでしょう」
いざ観光農園を本格始動する時に向けて、「国東のオリーブ」の認知を広げるのが佐々木さんの役割だ。飲食店などで使用される機会も徐々に増えている。
「レストランや料理家さん、それからホテルの九州食材フェアなどで使っていただく動きもあります」
ツアーには繁忙期と閑散期があることも課題の一つだという。将来に向けて、オリーブとは収穫期の異なる柑橘類の苗木を植え、収穫体験のバリエーションを広げようともしている。

「安定して人を呼びたいものですが、どうしてもオリーブの収穫時期に集中して、冬場は閑散としてしまいます。オリーブの花が咲く時期に花を見に来ていただいたり、地元の作家さんと連携したイベントを開催したり、農園を舞台に、本当の意味での地域連携を考える。地元の人に気づいて知ってもらい、何年もかけて国東オリーブの可能性を地道に広げていこうと思います」
名産品を育て、観光地として発展させ、雇用を増やし、地域を活性化する。国東クリーブガーデンは息の長い挑戦だ。佐々木さんの広報PRは、自然と向き合いながら、まだ認知されていない価値を言葉や体験にして届けていくこと。お話を伺って感じたのは、焦らず長期的に取り組むことの大切さだった。時間の蓄積とともに、国東オリーブはこの土地に少しずつ、そして強く根を張っていくのだろう。
(取材・文/塚原沙耶)
PR TIMESのご利用を希望される方は、以下より企業登録申請をお願いいたします。登録申請方法と料金プランをあわせてご確認ください。
PR TIMESの企業登録申請をする

